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A4一枚の憧憬描写【憧憬のピース】6歳第七話『プロムナードのその先へ』
さいたまスーパーアリーナの巨(おお)きな影に潰されて、ひっそりと佇(たたず)むJR北与野駅の深閑がボクは好きだ。
北与野の駅改札から出て右折すれば、長めの横断歩道の先にプロムナードが続いていて、ボクはよく祖父と一緒に、このプロムナードの先に連れて行ってもらった。
紅梅や百日紅(さるすべり)の花々は樹間に萌えていて、植物名が黒地のプレートに白で刻まれていた。
春には土筆が咲いた。
「ほんとうに『筆』みたい」と目を近づけて、しばらく見惚れていたボクを祖父は眩しそうに見守ってくれる。
野を舞う紋白蝶が、蜜蜂になり、秋茜へと姿を変えて、ボクを歓迎してくれた。
都会に居ながら、都会にいつまでも染まらないボクを珍しがっていたのかもしれない。
丈の高い芝生の中をいつまでも燥(はしゃ)ぎ回っていると、祖父が苦笑いを浮かべてボクの腕を掴んできた。
「陽が傾いてきたから、もう行こっか」
「うん」
ボクの周りを浮遊している紋黄蝶に手を振った。
ねじれた八の字を描いて、優雅に翅を翻している。
刻々と色を変える空は、いつもボクの邪魔をした。
プロムナードの終着点には、ラフレさいたまがある。
二階のローソンで好きなおむすびと、サンドイッチを買ってもらった。
レジ台の下から、ボクが顔を出すと、店員のおばさんは「あら、かわいい」と笑みを振りまいてくれた。
エレベーターで六階まで上がる。
漆黒のカードを胸元から出して、祖父は流れるように受付を済ました。
扉を開けてもらって、中に入る。
靴を脱いで、手に持ち、縦長の箱の中に置いた。
全裸の男性たちが無言で服を着たり、体重を測っている。
清掃のおばちゃんが、見て見ぬふりをしてモップを掛けていた。
誕生月の干支の動物がプリントされたパンツを一枚だけ身につけて、白い水泳キャップ、ゴーグルをパンツに差し込む。
バスタオルを脇に挟みながら、湯気の立つ白い廊下を裸足で抜けて、シミの滲んだ祖父の背を追った。
水着を全身につけた女性たちも別の扉から流れ込む。
露出した肌に冷気が貼りつく中、ざらつきの増してくる床を踏みしめた。
透き通った扉をくぐると、青く水の張った縦長のプールが現れた。
プールサイドを落ちないように渡り切ると、赤いメガホンを持ったお姉さんが「こんにちは」と挨拶をしてくれた。
こんにちあ、と返して祖父を追う。
手すりをつかみ、水中に隠れた段差を下りながら、緑茶色をした温水の流れるプールに浮かぶ。
ボクの両腕には、パンパンに膨らんだ朱赤の浮き輪がはめられていた。
水面から顔を出して、祖父は水底に足をつけて、プロムナードのその先へと、波に揺られて、時を忘れて、どこまでも流れていく。
※ ぜひ、何度も読んで、隠されたメッセージを解読してみてください。
憧憬のピースには、必ず、メタファー(暗喩)があります。
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🔆【憧憬のピース】とは・・・?🔆
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A4一枚に収まった超短編小説を
自身の過去(憧憬)を基にして、創作するプロジェクトのこと。
情景描写で憧憬を描く『憧憬描写』で、
いつか、過去の人生がすべて小説になる(ピースが埋まる)ことを
夢見て・・・