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A4一枚の憧憬描写【憧憬のピース】2歳第二話『まだ順番を知らない』
「あっ、あっこに、いちばんぼし」
ママの腕に持ち上げられて、知らない男の頭にしがみつき、屈強な肩の上で短い脚を垂らす。
パパだ。
その瞬間だけ、見知らぬ男の人はパパになる。
高い所から遥か先まで見下ろすことのできる大人の景色は特等席だった。
「ここにも、いちばんぼし」
「おっと、それは『にばんぼし』だな」
「ちょっと、ツバサに変な言葉おしえないで」
「すまんすまん」
ママは、いつもパパのお口のチャックを閉じる。
「ここ、ぜぇんぶ、いちばんぼし。みーんな、いちばん」
「すてきじゃない。ツバサは、まだ順番を知らない」
三つの一番星が次々に消えていく。
ボクを乗せたまま小刻みに跳ねる空飛ぶゆりかご。
そこから覗いた眺めは、どこか朧気で、どれだけ手をのばして掴もうとしても、届かなかった。
* * *
藺草(いぐさ)の香りに蒸されて、窓際の太陽に目を刺された。
ゆりかごと一体化した身を剥がす。
見たことのない世界に到着したようだ。
ここが「フクオカ」なのだろうか。
それともどこか遠い場所から吹き込んできた「シンセキ」という名前なのだろうか。
ちっちゃいママが「あちょぼ」って誘ってくる。
自分の指をしゃぶっているが、そのような猟奇じみた遊びには、未だに興味が持てなかった。
顔の違う三人のパパが、この新天地には暮らしているようだ。
ほんとうのパパは、長細いパパか、まんまるパパか、それとも、ニコニコパパか。
そのどれでもないのか。果たして見分けがつかなかった。
「ツバサくん。これ、いくつだ」
体の違う五人のママが「もんだい」を出してきた。
テーブルの上には蜜柑が散らばっている。
ボクはひとつひとつを指差して「いち、に、さん、いっぱい」と数えた。
「いっぱい」
自信満々に答えたボクの腕を、よだれまみれの指がなでた。
ちっちゃいママだった。
ふふーん、と変な声を出してボクから離れた。
無視をすると、また小汚い指先でボクの腕をべとべとにしてきた。
そこまでして、その、末恐ろしい遊びをボクとしたいのか。
いっぱいのママが剥いたばかりの蜜柑を掴んで、その子を追い駆けてみた。
「よん、って、ゆうんだよー。さん、のつぎは、よーんー」
「じゃあ、よーんー、のつぎはー」
「まねしないで」
身体を振り乱して、叫ばれた。
はじめて本気で怒られた。
その瞬間、ボクのどこかに大きな穴が開いた。
怖くなった。
この世界で暮らしているニセモノのママの存在が全部、偉くなって、逆らえなくなった。
🔆新プロジェクト始動中!
🔆【憧憬のピース】とは・・・?🔆
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A4一枚に収まった超短編小説を
自身の過去(憧憬)を基にして、創作するプロジェクトのこと。
情景描写で憧憬を描く『憧憬描写』で、
いつか、過去の人生がすべて小説になる(ピースが埋まる)ことを
夢見て・・・