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イギリスの春の色

各地で桜が咲き始めました。日本もようやく春がきましたね。

BRITISH MADEのWEBスタッフ、YOKOです。
今日は、春のロンドンを思い出しながら書いてみようと思います。

ロンドンの3月、4月は、コートが必要な日がまだまだ多いのですが、それでも“真っ暗で冷たい陰鬱な”真冬とはちがいます。春の兆しが街のあちらこちらに感じられ、気持ちが明るくなる季節です。

私がロンドンに引っ越しをする前、渡英の時期について悩んでいたことがありました。ロンドンに駐在経験がある大手企業の社員の方とお話をする機会があったので、ぽろっと「ロンドンにはいつ頃、行ったらいいでしょうか」と相談してみたのです。

「それなら絶対に4月だよ。うちの会社では社員が入れ替わりロンドンに派遣されるんだけどね。4月に渡英した人と、10月に渡英した人とじゃ、イギリスを好きになる度合いが全然ちがう。

4月に渡英した人は、ロンドンが一番美しくなる季節を真っ先に経験するから、その後にくる冬も乗り越えられる。でも10月に渡英した人は、慣れない海外暮らしに加えて、暗くて長いイギリスの冬が堪えるみたいでね。ロンドンなんて嫌いだ、とか言い出すよ」

なるほど、そういうものかと思い、私は4月に渡英することに決めたのでした。

その後、ロンドンでは4回の春を迎えるのですが、あの時、会社員の方が教えてくださったことの意味をのちに痛感することになります。“真っ暗で冷たい陰鬱な”イギリスの冬から解き放たれる春の喜びは、日本のそれとは比になりません。逆に、“真っ暗で冷たい陰鬱な”イギリスの冬に向かっていく秋のメランコリーといったらもう……。

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“真っ暗で冷たい陰鬱な”イギリスの冬、ある年の2月の積雪

というわけで、“真っ暗で冷たい陰鬱な”イギリスの冬に辟易している2月、3月に、うっかり春の兆しでも見つけようものなら、その日は1日気分よく過ごせること間違いなしなわけです。

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うっかり見つけてしまった春の兆し、たぶんクロッカスの赤ちゃん

話は変わりますが、私はロンドンのハムステッドというところにフラットを借りて住んでいたことがあります。ハムステッドは歴史保護区に指定されているので、景観を守るために庭を奇麗にガーデニングすることが義務づけられています。そんな街の恩恵を受けて、春夏には咲き乱れる花々を楽しむことができました。

私のフラットの隣には、細身で長身、ベリーショートの黒髪がよく似合うダイアンという女性が住んでいました。彼女はいつも真っ白なフレンチブルドッグの愛犬ジョディを連れており、私にイギリスの文化についていろいろ話を聞かせてくれました。

中でも心に残っているのは、「イギリスの春の色は黄色」という話です。

イギリスの春はね、スイセンから始まるの。黄色いスイセンが街中に咲いたら、それから次々に他の花も咲き始めるのよ」

ダイアンが言う通り、そこかしこに咲く黄金色のスイセンの存在感は圧巻でした。

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英国詩人ウィリアム・ワーズワースは、スイセンの群れに遭遇した感動を次のような詩に残しています。

「The Daffodils(水仙)」(壺齋散人訳)

谷間をただよう雲のように
一人さまよい歩いていると
思いもかけずひと群れの
黄金に輝く水仙に出会った
湖のかたわら 木々の根元に
風に揺られて踊る花々

銀河に輝く星々のように
びっしりと並び咲いた花々は
入り江の淵に沿って咲き広がり
果てしもなく連なっていた
一万もの花々が いっせいに首をもたげ
陽気に踊り騒いでいた

湖の波も劣らじと踊るが
花々はいっそう喜びに満ちている
こんな楽しい光景をみたら
誰でもうれしくならずにいられない
この飽きることのない眺めは
どんな富にもかえがたく映る

時折安楽椅子に腰を下ろし
物思いに耽っていると
脳裏にあのときの光景がよみがえる
孤独の中の至福の眺め
すると私の心は喜びに包まれ
花々とともに踊りだすのだ

寒い冬を毎年経験しているイギリス人でさえ、春のスイセンを見かけるとこんなにも心が躍るんですね。イギリス人にとって、スイセンはそれほど特別な花なのです。

ところで、春になるとスイセン以外にも、黄色い花は街中で見つけることができました。

レンガ塀や板塀の向こう側からこぼれ落ちてくるように、春の黄色い花々は咲き乱れていました。

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ダイアンは春の花について、こんな話も聞かせてくれました。

日本はサクラが美しいと聞くけど、イギリスの春はマグノリアなのよ。私の家の庭にもマグノリアの木があるの。咲いたら、うちでアフタヌーンティーでもしましょうね」

残念ながら、その日がくる前にダイアンはもっと大きな庭が付いているという家に、ジョディと一緒に引っ越してしまいました。ただ、ダイアンが話していたイギリスのマグノリアは、私が通っていた学校の校舎裏で偶然にも見つけることができました。

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肉厚な花びらに透ける花脈が人間の血管のようで、「なんて妖艶な花だろう」と思ったのをよく覚えています。

こうして、スイセン、マグノリアの季節を過ぎると、ロンドンは1年で最も美しい5月、6月を迎えます。

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BRITISH MADE の STORIES では、イギリス在住のライター マクギネス真美さんが「イギリスの春を象徴する花」としてスイセンを紹介してくださっています。イギリス人とスイセンとの素敵な関係が感じられるコラムです。

こちらの記事もあわせてご覧ください。

English Garden Diary
イギリス・春を待ちわびる花、春を告げる花

今日も最後まで読んでいただきありがとうございました!

YOKO

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