この世界は誰が見ているのか? SF史上最大の謎に迫る『オムニ・オブザーバー』
『オムニ・オブザーバー』(Omni-Observer)
〈前作のラスト〉
イーサンは「究極の観測者」の存在に気づく。それは、未来の人類が進化の果てにたどり着いた姿──オムニ・オブザーバー。
彼らは「時間を超えてすべてを同時に観測する存在」であり、宇宙そのものを形成する力を持っていた。
しかし、その無限の観測は、ある致命的な問題を引き起こしていた。
「未来人と過去人が互いに観測し続けることで、時間そのものが歪み、宇宙が崩壊し始めている」
オラクル・プロジェクトがもたらしたのは、量子力学の奇跡ではなく、「世界の終焉」 だった。
〈第三部 開幕〉
イーサンは、未来の人類と交信することで、オムニ・オブザーバーの意識に直接触れることに成功する。
そこで彼が目にしたのは、無数の時間軸が同時に重なり合い、存在と非存在が揺らぎ続ける世界 だった。
「お前たちは、観測することで宇宙を形成してきた。しかし、それはやがて“無限ループ”となり、宇宙そのものを崩壊させる」
未来の人類は答える。
「観測をやめることは、存在をやめることと同義だ」
イーサンは思考する。
もし、人類が観測をやめたならどうなるのか?
それは、「知ることを放棄すること」、すなわち「人類が進化をやめること」を意味する。
しかし、知り続ける限り、この世界は確実に崩壊する。
「では、俺がすべての観測を遮断する」
彼は決意し、オラクル・プロジェクトの中心部へ向かう。
そこには、シュレディンガー・ドライブの最終形態があった。
「この装置を破壊すれば、未来と過去の相互観測は停止し、宇宙の歪みは修正されるはずだ」
だが、それは**「彼自身が観測されない存在になる」** ことを意味していた。
研究者たちは彼を止めようとするが、イーサンは言う。
「誰かがこの連鎖を断ち切らなければならない。だったら、俺がやる」
彼はシュレディンガー・ドライブを起動し、オラクル・プロジェクトの中枢を破壊する。
その瞬間、世界が静寂に包まれた。
「……これは、観測されない世界か?」
イーサンは、自分の存在が希薄になっていくのを感じる。
周囲の風景が次々と消えていく。
自分の手も、足も、やがて意識すらも──
彼は完全に「観測されない存在」となり、この世界から消滅した。
〈エピローグ〉
世界は、何事もなかったかのように続いていた。
オラクル・プロジェクトの痕跡は消え、研究者たちも元の人生を送っている。
イーサンという男は、最初から「いなかった」ことになっていた。
しかし、ある日。
ひとりの研究者が、なぜか記憶にない論文を発見する。
それは、「観測が存在を決定する」という量子力学の原理についての研究だった。
そして、その論文の最後には、ただ一言だけが記されていた。
──「そこにいるか?」
(Fin.)