水槽の彼女〜カバー小説【9】|#しめじ様
この短篇小説は、しめじ様のnoteからインスパイアされてカバー小説にさせて頂きました。
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🌿これまでのお話🌿
▶8話(1〜7話収録)
【9】
僕は、優愛と夜の散策に行くことにした。マンションは水路近くにあり、少し歩くと疎水わきの並木道に出た。
細い葉が枝垂れて、さらさらと揺れる柳の道。月の光に緑が浮き上がり、川面はきらきらと光の粒を見せて流れていた。
「―――気持ち良いね。久し振りだわ、外の空気吸うの」優愛は言った。
僕は、割合背が高いほうだ。並んで歩く優愛は僕より少し低い―――耳くらいの高さになる。
髪は長いが、優愛は中性的な雰囲気がある。外国人のpapaと暮らしていると、日本人離れしてくるのだろうか。
「ちょくちょく、家から出ればいいよ。息が詰まるだろう?」
「うん・・・」
俯向き、落ちてきた髪を耳にかける。耳の形が小さく、よく出来た作りものみたいで、僕はそれを凝視した。
「あのね、私、多分心配し過ぎだと思うんだけど・・・周りの目が気になるの」
優愛は僕を見上げた。歩きながら、つまづきかけて一瞬、僕の肘を掴んだ。
「前にね・・・papaと、噂になったことがあるの。“あの親子はおかしい”って」
「―――おかしい?」
優愛は頷いた。
「静かな住宅街だから・・・周りの住民は、よく見てるの。
mamaが大声を上げて、家の前で事故を起こしたとき、救急車やパトカーも来てたし。
・・・人目を引いたんでしょうね」
「ああ・・・」
優愛は、papaのヌードモデルをしたときのことを言っていた。誤解したmamaが、家を飛び出して車と衝突したという、痛ましい話だ。
「近所の人とすれ違うと、それからずっと様子が変なのね。こわい目で見られてるような」
「そうか・・・事情を話して回る訳にも、いかないだろうしね」
僕は歩きながら腕組みしていた。
「そうなの。
・・・あと、高校でもね・・・」
優愛は髪を束ね、ポニーテールのように高く結わえる仕草をした。
「懇談会なんかで、私が廊下でpapaと話してると、―――やっぱりpapaは目立つでしょう?
何か雰囲気が怪しいって、噂になっちゃうの」
「うーん・・・きみが、大人びてるからかな?」
「・・・・・」
優愛は、僕をちらりと見た。
そして、枝垂れ柳を、簾のように手で避けつつ、
ゆっくりくぐって、ずっと先まで歩いた。
そうやって木の下を歩いていると、月光を浴びて、優愛は柳の精になったように見えた。
僕はポケットから煙草を取り出した。途端に、箱から甘いような煙草の香りがした。
間を埋めるとき、煙草というのは便利なものだ。
火を付け、身体の隅々まで行き渡るように、ゆっくりと煙を吸った。
「・・・きみが悪いって、言ってる訳じゃない」
優愛は立ち止まって、僕に向き合って立った。視線は、僕を通り越してあらぬ方を眺めていた。
彼女は言うのを躊躇っているように、唇を少し開いたり閉じたりした。
「―――優愛?」
声を掛けると、優愛はぐっと焦点を合わせて僕を見つめた。
「―――警察が来たの。家に。
“ふたりはどんな関係ですか”って・・
旅行前のことよ」
【 continue 】
▶Que Song
また来世/Dios
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