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鏡の中のアリス〜手書きの名刺|#短篇小説


この短篇小説は、以下のnoteの続きになります。


よろしければご高覧下さい。

↓ ↓ ↓



《登場人物》

和美
:真面目な入社5年めの事務員。
少女の頃から変わらぬ雰囲気で、冒険を好まない。

絵梨花:和美の同級生。やや不良めいたところがある。背が高く、モデルのような、フォトグラファーの卵。

涼哉:手書きの名刺を和美に出した、新人のホスト。


《前回の抜粋》

「―――え、毎日LINE来てるの!?」




絵梨花は周りの人が思わず耳をそばだてるくらい大きな声で、和美に問いかけた。久し振りにランチしようと約束をした日、食後の会話で、和美の近況を伝えたのだ。



「・・・うん。お店に行った夜から」


和美はホットミルクティーのカップを持ち上げた。



絵梨花は左手でアイスコーヒーのストローをもてあそびながら、右手をテーブル越しに伸ばす。



「・・・ちょ、ちょっと、見せてみ。
そのLINE」



絵梨花は半分和美の保護者の気分でいる。正直、あまりひと・・には見せたくなかったが、仕方なく自分の席の横に置いてあるバッグを探さぐって、携帯を取り出した。



「トーク見るよ。・・・何だっけ?そのホストの名前」



涼哉りょうや

「シンデレラ・コンプレックス」



🌹鏡の中のアリス〜手書きの名刺🌹



絵梨花とランチで会ったその週末、和美は本当に彼女にプロデュースされることになった。


絵梨花は撮影の際、モデルに服を選んで着せたり、イメージする写真に合わせたメイクを施したりすることがあるらしい。覚悟をした和美は、すべて絵梨花に任せることにした。


・・・正直、冒険出来ない自分をいちど変えてみたい、という意識が無いでもなかった。




「あのさ、先ずはそのヘアスタイルを変えてみようよ。私がいつも行ってる美容院サロン、予約しといたから」


和美が長年、同じおかっぱの髪を揃えてもらっている店は、母親も通っている古くからの馴染みのところだった。


中学生から28歳になろうとする今まで、ずっとそこに決めていたのは、違う店に変えると美容師に気を遣いすぎて疲れてしまうからだった。


「・・・ねえ、絵梨花。

今日はどんな人に切られるか分かる?」


和美が不安気に訊くと、


「分かるよ。和美は女性が良いんでしょ?

私の担当スタイリストだけど、女性で割合無口だから、和美向きだよ」


絵梨花は訳知り顔に和美に流し目をくれて、少し早足で青山の街を進んで行った。




大きなウインドゥ越しに、最先端のファッションで身を包んだ、モデルのような美容師スタイリストたちが、カットシザー片手にスマートに立ち働いていた。


その様子を見るだけで、和美は腰が引けるようだった。


「―――さ、もう時間になるから、入るよ?行こ?」


二の腕を押されるようにして、和美は絵梨花とふたり、重いガラス張りのドアを開けて店内に入った。




希望するヘアスタイルに関しても抜かりなく、絵梨花は先に携帯で検索していたらしい。ストレートのロングヘアの女性担当に、画像を見せていた。


「・・・トップは少し量感を出し気味で、先のほうには軽くシャギーを入れて欲しいの。全体は前下がりのボブで、こんな感じに・・・」


絵梨花と担当のやり取りを聞きながら、和美は大きな子供みたいに、鏡の前の椅子に座っていた。





2時間ほどして。和美は自分の顔がすっきりと小さく、垢抜けたように見えて驚いた。


受付カウンター横の白い革張りのソファに座っていた絵梨花が、椅子の背後に近付いてきて、笑顔を見せた。


「・・・良いね。やっぱり似合ってる。大人っぽくなったよ。

多和田さん、彼女にメイクもしてあげてくれる?クールビューティーなイメージで」


「え、メイク・・・?」


顔を触られるのが初めての和美は、少し悲鳴に近い声を上げた。


絵梨花はまた、鏡越しに和美に笑いかけた。


「そうだよ。これから服も選びに行くの。トータルで合わせないと、ちゃんと分からないでしょ?」


戸惑うばかりの和美に言う絵梨花の顔は、まるで魔法使いみたいだった。


「ーーー和美が知らない和美を、見せてあげるよ。楽しみにしてて」



【 continue 】


▶Que Song

killer tune kills me/KIRINJI




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🌟Iam a little noter.🌟



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