水槽の彼女〜カバー小説【7】|#しめじ様
この短篇小説は、しめじ様のnoteからインスパイアされてカバー小説にさせて頂きました。
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🌿これまでの話🌿
▶6話(1〜5話収録)
【7】
僕は、彼女の書いた葉書を持って、車を走らせた。彼女は僕の家に残ってもらった。
今日は心身ともに疲れただろうし(まあ、それは僕も同じだが)、県庁所在地ふたつくらい先の街へ行くつもりだったから、帰りが遅くなるに違いなかった。
幾つもいくつもの信号を越えて、目当ての場所に着いた。そこは古い市街地で、駅前のロータリーは人影も疎らだった。
赤く四角いポストが、何か意志を持ったキャラクターのように佇んでいた。車を止め、ポストの口に葉書を入れた。
(――頼むから、変なトラブルにならないでくれよ・・)
ポストが神様であるかのように、軽く片手で拝む。
消印は、僕の住所と全く違う街。
これで、papaは当面彼女を探し当てられないはずだ・・・。
ようやく帰宅した。テレビがついたままになっていて、彼女はソファでタオルケットをかけたまま眠りこけていた。
パステルカラーのカットソーの部屋着を着て、素顔の彼女はまだあどけなく見えた。テレビに映っていたのは、「ハリー・ポッター」のDVDだった。
(本棚を探したんだな、)
その様子を想像したら可笑しくなって、ふっと忍び笑いを漏らした。タオルケットを、首元まで上げてやった。
(待つ気でいたんだ。でも、まだ子どもだな・・・)
それから、彼女との奇妙な暮らしが始まった。
彼女は家ではずっと僕にくっついて、物の在り処や使い方などを覚えようとしていた。
外には出たがらなかった。
合鍵なら有るし(前の彼女のものだった)、窮屈じゃないのか、と訊くと、
「急に私みたいなのが出入りしたら、目に付くでしょ?」と言うのだ。
名前は優愛だと教えてくれた。
「ゆあとか、りらとか、何か似てるでしょ。mamaの趣味ね・・・」
そう言うときの優愛は、眉を顰めてちょっと辛そうだった。やはり、母親の死は心に影を落としているのだろう。
優愛は何が何処にあるか分かると、
「家でごはん作ってたから・・」と言って、(朝はパンなので)夕食を毎日あれこれ用意してくれた。
「今日はカレー」
「今日はチャーハンと餃子。あとスープ」
「ナポリタンとサラダ」
・・・といったふうに。何でも、「住まわせてもらうお礼」なのだそうだ。
家のドアを開けて「ただいま」と言う。(優愛が来るまでは無言だった)
優愛が奥から早足で出て来て、嬉しそうに「おかえりなさい。お疲れさま」と言う。退屈を持て余していたのだろう。
・・・まるで、【おままごと】みたいだった。
優愛とふたりで向かい合って、毎晩ごはんを食べた。やはり口数は少なかったが、日を重ねるうち、優愛から僕へ話しかけることがだんだん増えていった。
ある日、優愛が「いちばん好き」という太刀魚の焼き魚を突付いているとき、躊躇いがちな様子で、僕に訊いてきた。
「―――あの・・・
どうして、私を連れてきてくれたの?
見ず知らずの、他人なのに・・・」
優愛はお箸を宙に浮かせていたが、箸置きにカタン、と揃えて置いた。
僕もお箸を置いた。お皿に渡してだったが。
(そりゃそうだ・・・気になるよな。下心あるんじゃないか、って・・)
話す前に背筋を伸ばした。急に煙草を吸いたくなったが、食事中なので諦めた。
「―――僕はさ、孤児院を出てるんだよ。
君の様子を初めて見ていて、瞳が冥いのを感じたとき、
まるで昔の僕と・・・
いや、僕が其処に居るような気がしたんだ。それだけさ」
優愛は僕の瞳をじっと見つめ返した。
ふたりの瞳の中にあったのは・・・
もしかしたら、冥い焔のようなもの、だったかもしれない。
【continue】
▶Que Song
スタンダロン/Dios
はい、今日はここまで。次回は「僕」の過去と「優愛」の過去篇の予定です。
ふたりにどのような共通点があるか?
関係が深まっていくのか?
今後の展開をお楽しみにお待ち下さい😊
🌟Iam a little noter.🌟
🤍
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