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「何とか」〜二十億光年の記憶解凍

この短篇小説は、以下のnoteの続篇となっております。

ご高覧頂けると幸いです。

↓ ↓ ↓

🌿3話(1〜2話収録)


《登場人物》



沙良・・・シングルマザー。一人娘が   いる。


斎藤俊彦・・・沙良の高校時代の同級生で元彼氏。


―――

《前回のハイライト》

軽く驚きながら、声を聞いた途端に、温もりのある懐かしさが記憶解凍されて、ちょっと焦った。



昔と変わらない、一重まぶたの奥の穏やかな眼差し。微笑みを含んでいる。



「ご無沙汰、だな。どうしてた?」



(どうしてたか・・・言い切れないわ、貴方には・・・)



沙良は片手にグラスを持ち直しつつ、口火を切れず・・・ただ、俊彦と目を合わせていた。


「再会〜二十億光年の記憶解凍」



万有引力とは
ひき合う 孤独の力である
宇宙はひずんでいる
それ故みんなはもとめ合う
宇宙はどんどん膨らんでゆく
それ故みんなは不安である
二十億光年の孤独に
僕は思わずくしゃみをした

「二十億光年の孤独」
〜谷川俊太郎


【 4 】


ストレートに問いかける俊彦に、沙良さらは微笑みになるよう意識しつつ顔を向けた。


「・・・うん。まあ、何とか頑張ってるよ?」


「そうか・・・」俊彦は口の端を緩ませ、テーブルのグラスを持った。


「―――じゃ、お互いに、何とかやってるのに乾杯」


沙良のグラスに、軽くカチンと自分のグラスを当てた。


としくんも、“何とかやってる”のね・・・)


便利な、大人の言葉だな、と沙良は思った。「離婚」については、結局どちらも語ることなく、無難に歓談した。





そのあと1時間ほどして、同窓会がお開きになり、店のオーナーであるクラスメイト以外、全員外へ出た。オーナーの子は、カウンターの奥から笑顔で手を振って見送ってくれた。


「2次会へ行く人―――」


エレベーターを降りた途端、幹事役の【男子】から声がかかった。


「はいはい」と言って何名かが幹事の横にまわった。


「私・・・ここで帰るね」

沙良は片手を挙げた。


「俺も、帰るよ」


俊彦が言った。一瞬、場の空気が酔いが醒めたように変わった。【女子】たち何人かが、目配せをした。


(何か想像されてる?)


「―――よし、じゃ次行こう―――」


幹事がその空気を元に戻すように号令をかけて、皆を率いるために背中を向けた。





沙良と俊彦は、同じ駅に住まいがあった。


クラスの皆と別れて、ふたりきりになって歩くのが久し振りで慣れず、ぎこちなく時々ぶつかった。
距離感が、うまくつかめない。


それでも駅で切符を買ったり、人混みの中で歩きやすいようにかばってもらったりするうち、不思議なことに沙良の心は甘い気持ちで満たされていった。



・・・自然に、過去の記憶を手繰たぐっていた。




付き合っていた、高校生のあの頃―――。



帰宅部の沙良は、図書室で時間をつぶして、陸上部の俊彦が部活を終えるのを、よく待っていたものだ。


(冬には、誰も居ない教室で、マフラーを編んでたっけ・・・


ふふ、下手でゲージ※が決まらなくて、何回も編み直したよね)


今、ホームで隣に並ぶ俊彦。高校の制服を着て、もこもこしたモスグリーンの手編みマフラーを巻いていた姿がよみがえる。



当時より、少し引き締まった横顔を見つめていると、沙良は自分の中の「女性」性フェミニティーが、蜜が染み出るように外に溢れてくるのを感じて、思わずどきりとした。


(いくら、同じく“離婚している”からと言って・・・)


こんなに早く、俊彦に異性を感じるのは、タイミングがおかしいと思った。



・・・私も、何を想像してる?


―――お互いが、シングルだから。

―――お互いが、以前付き合っていたから。


また、関係が復活するなんて、何も決まっていない。


期待するのはこわい。もう傷つきたくないから・・・)


堅くなって俯向いていると、突然俊彦が声をかけた。


「―――電車、もう30分でもずらさない?」


意外過ぎて、俯向いた顔を上げた。
俊彦は、至って真面目な様子だった。


「駅前の喫茶店でも良いから・・・。

沙良と、少し話がしたいんだ」



▶Que Song

About You/三浦大知



【 continue 】




(筆者註:ゲージ・・1インチの間を何本の編み針で編むか」という意味合い)




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