水槽の彼女〜カバー小説【8】|#しめじ様
この短篇小説は、しめじ様のnoteからインスパイアされてカバー小説にさせて頂きました。
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🌿これまでのお話🌿
▶7話(1〜6話収録)
【8】
「こじ、いん・・・」
優愛は固唾を飲んで、僕の話すのを見守っていた。
「そう。親がね・・・
【問題有り】なんだ」
もしかしたら、自嘲した嗤いを浮かべてしまったかもしれない。もう何年も、こんな感情を身体の奥底に沈みこませて忘れようとしていた。
その場を誤魔化すように、太刀魚や白米をどんどん平らげた。
豆腐と、薄く切った玉葱入りの味噌汁まで音を立てて飲む。その間、優愛は僕を見て息を潜めていた。
・・・箸を置いたとき。
「―――【問題有り】って・・・?」
優愛の瞳が次第に潤んできた。
出来るだけ自分の話を早く終わらせ、テーブルから離れるつもりだったが・・・
優愛は僕の話を、興味本位でなく、聴きたいのだと思った。
「ちょっと、”これ“片付けていい?」
「―――あ、うん・・・」
僕は食べ終わった器をシンクへ運んだ。なるべくスロウに。
前の彼女にも伝えなかった話だから、少し頭を冷やす時間が必要だったのだ・・・。
もう一度、テーブルの席についた。
優愛はもう食べるのをやめて、黙って僕の話を聞く態勢になっていた。
まっすぐ優愛を見て、僕は過去を話し始めた・・・。
「―――僕の父親は、元は会社を経営してたんだ。
数人の社員だけの、零細企業でね。
それでも、それなりにやってたみたいだ。
家族で年に何回か、海外へ旅行してたからね。
・・・だけど、古くからの親友に頼まれて、金を工面して、夜逃げされたって聞いた。
まだ、子どもだったから・・・、詳しくは、よく分からないんだ。
4年生のときだな。
それで、何やかや問題が発生して、うちの会社は倒産した。
不渡り、とか言ってたよ。
長年勤めてくれた社員のおじさん達から、何とも言えない顔で頭に手を置かれたのを覚えてる。同情されたのもあったし、自分達も困ってたんだろうな。
あっという間に、会社から誰も居なくなった」
優愛は器をテーブルの端に片寄せて、
「たいへんだったのね・・・」
暗い顔で言った。
「それから・・・父親が荒れてね。
信用してた人に裏切られたのと、自分の砦が失くなって、生きる意味が分からなくなったんだろうな、今思うと。
―――酒びたりになったよ。
玄関先で倒れていることも何度もあった。無精髭を生やして・・・
洒落者だったのにさ。何も構わなくなって。
母親はいつもおろおろして、泣いて、もう見ていられなかった。
だけど、働く人が居なくなったから、母親は生活のために夜の仕事を始めたんだよ。
近くのスナックで、手伝いみたいに働いてた。・・・何度か、母親が恋しくて見に行ったことがある。
裏口で、『もう帰りなさい』って言われてね・・・。客たちから、目立たないようにして。
父親は酒でおかしくなって、母親の顔を見ると暴れ始めたんだ。
お前、俺に愛想を尽かしたんだろうって。客にいい男が居るんだろ、馬鹿にするな!って大声で喚いてた。
・・・家の中のものを投げるから、近所にも迷惑かけてさ。警察沙汰だよ」
煙草が無性に吸いたかった。立ち上がって、台所の換気扇の下へ移動した。いつもは賃貸だから、バルコニーでしか吸わないようにしているのだが、我慢が出来なかった。
PTSDの一種かもしれない。
ビールの空缶を、灰皿代わりにした。
「―――こんな話、聞きたくないだろう?
それから、また色々拗れて、孤児院に入ることになったんだ」
「そうなの・・・」
―――
優愛にも言いたくなかった。
父親と母親がその後別居したこと。
父親は僕を離さなくて――多分独りになりたくなかったのだろう――残ったが、面倒を見れる状態ではなかった。
結局、孤児院に入った。
数年後、母親と喫茶店で面会したら、別人のようにけばけばしくなっていた。
母親は「再婚する」と言った。多分客のひとりとだった。僕に、一緒に来るか、と尋ねたが、最後まで聞かずに店を飛び出した。父親への裏切りだ、許せないと思った・・・。
―――
黙ってせわしなくふかしていたら、喉がいがらっぽくなった。煙草を缶に落として、もう一缶ビールを冷蔵庫から出した。
優愛はシンクの食器を洗っていた。僕の話を聞いて、萎れたように元気がなくなっていた。
元々ティーンエイジらしい溌剌とした印象はなかったが・・。
「―――君も飲む?と言いたいけど、まだ飲めないよね」
わざと冗談めかして声をかけた。優愛はそんな僕を見つめて、
「・・・色々、あるのね。
自分だけじゃなくて・・・
あなたにも、ね」
そうだ。勿論優愛にも「何か」がある。
崩壊星の瞳から、今は少し違う光を宿してはいたが。
高校を中退したうえで、どうしてもpapaから離れたかった「理由」が、何かあるに違いない。
優愛はシンクをすべて片付け、タオルで手を拭いた。そして僕に向きなおり・・・俯向いて、溜め息をついた。
「―――ねえ、外を歩かない?久し振りに、外の空気が吸いたいわ」
【continue】
▶Que Song
トロイ/Dios feat.DAOKO
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🌟Iam a little noter.🌟
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