名作過ぎて言葉にならない『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』映画感想
全宇宙の命運をかけておばさん頑張る!カンフーで!
ずーっと日本での公開を待ちわびていた『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』がやってきた。
公開日初日で見ることは叶わなかったけど、無事に二回観ることが出来た。英語版の予告で、ミシェル・ヨーがパイプ椅子振り回して戦ってるの見た瞬間に「これ面白いの来た!」と思ったのが懐かしい。そこから待ちに待っただけのかいはありました。
もう今年一の映画はこれだなと妙に強気になりたくなるほど、すごかった、もう優勝、最強。レビューとか、予告編を見すぎないようにしつつ映画館に言って、打ちのめされ、圧倒され、笑い、そして最後の方はもう号泣。
もう何もかもが過ごすぎて笑ってしまう王道の名作なので、色んな人に見て欲しい作品でした。
見た目は滅茶苦茶、中身はどシンプル。神過ぎるバランスのストーリー
さて本題、このエブエブ、予告編にはマルチバースだったり万華鏡のような作品とうたう通りに昨今流行りというか、お馴染みになった並行宇宙を扱うSF作品ではある。
が、正直言ってそんな細かい設定なんか気にしないで見てOKなのが大変うれしい。予備知識なしでえいやと見れちゃう。本当に話の内容は全宇宙の命運を懸けておばさん頑張る!カンフーで!なのである。
主人公は中国系移民のエヴリン、若い頃に駆け落ちしてアメリカに移住したものの、経営するコインランドリーはうまく行かず国税局に出す書類で悪戦苦闘。
それだけでもイライラするのに、夫は頼りにならないし、保守的な年老いた父の世話もしなきゃならない。加えて娘との関係もギクシャクしてる。愛情はあるのに、すれ違っててうまくいかない家族のやり取りに、出だし十五分でもう気まずさに身を捩りたくなる。
そこに突如現れた別宇宙の夫によって、全並行宇宙の崩壊を目論む悪の存在が告げられる。その強大な悪に立ち向かえと説得されるところから、物語は一気にマルチバースの世界へスケールアップ。
あの時ああしていたら、こうしていたらなタラレバ宇宙がこれでもかと展開される。本当に万華鏡でした、映像の。
何がすごいのかって、マルチバースで壮大な展開なのに、中で語られる話はエヴリンと家族、というものすごい卑近さのバランス。
仰々しい設定が、身近すぎる話題と密接に絡みついてこれでもか!と迫ってくる。感情ジェットコースターと映像ジェットコースターに見始めると乗せられて一気に駆け抜てしまうのだ。
この家族好きぃ!と言わずにいられないキャストたちのケミストリー!
物語の展開や構成も素晴らしいけど、役者魂見せまくるキャスティングもこの作品の魅力の一つ。
別宇宙のスーパーパワーを使ってキレキレに動いてたのに、急に普通の人の身体の動かし方に変わるミシェル・ヨーやキー・ホイ・クァン、変幻自在すぎてもうどうなってんのとなってしまうステファニー・スー。
気難しい国税局の役人、ジェイミー・リー・カーティスに、やっぱり気難しいおじいちゃんを演じるジェームズ・ホン。
誰も彼もがエブリンのいる宇宙と、別の人生を歩んでいるところを演じてるんだけど、いやそんなに違うんかい!ってツッコミたくなるほど多彩な演技が見れる。数多に存在する宇宙を演出する特殊効果もすごいけど、役者の本領発揮が存分に味わえてもう楽しすぎる。
主人公も敵方も、物語が進むに連れて応援せずにいられない。イケてても、イケてなくてもアンタが好きだぜ!最高!と言いたくなる、そんなギャップを見事に生み出すパワーたるや、素晴らしい。
メインの宇宙では敵対してるのに、別宇宙では恋人だったり、赤の他人だったりと変幻自在な関係性を演じて見せた本作の役者たちにもう脱帽、凄すぎる。
あと、当然だけどアクションシーンも神だった。ミシェル・ヨーがパイプ椅子振り回してるとこなんてもう、何これ!すごい、かっけえ‼‼って語彙力が死にます。
それで戦うの?なキー・ホイ・クァンや、え、ちょっとここからホラー映画なんですかジェイミー・リー・カーティス様な展開だったり、いやアンタも戦うんかぃ!ってなるジェームズ・ホンの各キャラが見せる戦闘シーンと普段のギャップが最高だった。
一押しはジョブ・トゥバキの衣装がどんどん変わっていく戦闘シーン。画面全体が衣装に合わせて色調が変わるのが最高、そこだけでも何度も見たくなる。笑えるのに、格好良い。
アクションシーンだけでも、この映画は何かこう普通の基準を全て突き抜けてて、全てが規格外。
今までヒーローじゃなかった人をヒーローに、ミシェル・ヨーが語るEEAOの魅力
二回観たけど、どうしてこんなにこの映画を見ると揺さぶられるんだろうと、少し考えてみた。一つにはこんな主人公に会ったことがないからかもしれない。
アジア系で、中年女性で、人生があまり上手く行ってなくって疲れてる、ドラマや恋愛映画なら探しだせるかもしれない。
だけどMCUとかDCユニバースの映画でこんな中高年の女性ヒーローが暴れまわるかというと、それはない。
(確かにマーベルの『エターナルズ』でサルマ・ハエックがいるけど規模が違うというか)
そんな中でミシェル・ヨーがこのエブリン役を射止めて、演じたっていうのはもう一つの偉業なんだよね。リンクの中でミシェル・ヨーが「自分たちの母やおばみたいな女性をヒーローになるチャンスが来た」って語るところがもうたまらないというか、この映画の魅力を端的に言ってて…もう胸熱です。(※訳は多少の意訳を含んでいます)
もともとが男性を主人公にしてた話を女性にしたってだけで、これだけ面白いものが作れるってことは、まだまだ世の中はこれまでの常識を打ち破る必要があるんだなって思ってしまう。
『マッドマックス怒りのデス・ロード』でしわくちゃのおばあちゃんが不敵に笑って、バイクをぶっ飛ばすのにときめき、『エターナルズ』でサルマ・ハエックがヒーロー集団のリーダーしてるのに悲鳴を上げて、『ハリー・ポッター』の映画でベラトリックスやマクゴナガル先生に熱を上げてた身としては、こうやってまた最高に格好いい大人の女性キャラが誕生したことが嬉しすぎる。
私の人生にはもっと女性のスーパーヒーローが必要なんだって再認識した最高の一本でした。
クィアストーリーとしても最高!ジョイと彼女が可愛すぎる問題
最後にこの映画、思った以上にクィアな要素が強くていい意味で裏切られた。エヴリンの娘には同性の恋人ベッキーがいるんだけど、なんていうか過度に格好いいでも美人でもなくて、すっごく等身大感があるのがいい。
しかも、めっちゃ仲がいいの、この二人。ジョイの家族仲を心配してたり、ジョイの祖父に会ってみたいと頑張るベッキーの健気さったら。地に足の着いたカップル感がすごく素敵、はっきり言ってめっちゃ可愛い。
しかも、それが重要なんだけど、重大でないっていうか、ちょうどいい塩梅に物語に重みを加えてて、うまくいえないけど今どきな作品だなって思う。
同性の恋人がいるってことに対して、アジア系で保守的な家庭で育ってきたエヴリンの気持ちも分かってしまうし、その一方でアメリカで育って当たり前のように自分の大事な人をありのままに紹介したいジョイの気持ちも分かる。
いやー難しいよねって自分もセクマイ当事者というのも相まって、頷きながら見てしまった。それでもこうなったらいいよねという本編は、親世代、小世代にも伝わるんじゃないかなと、励まされる人は多々いるんじゃないかなと思う。そちらの意味でも満点な映画だと思う。
いやもう、騙されたと思って誰もかれも見て!という名作過ぎる名作でした。