現代翻訳ミステリ史!読みたくなる本が多すぎる問題不可避な『アフター・アガサ・クリスティー 犯罪小説を書き継ぐ女性作家たち』
アガサ・クリスティー評論と現代ミステリ史が一冊に!内容も充実の『アフター・アガサ・クリスティー』
犯罪小説って読みます?それも日本のではなく、海外の。って言うと、結構な確率で名前が覚えられないから読まないと、割と言われる。あと、翻訳された文章の言い回しが苦手っていう声もある。どれも海外文学あるあるだ。
それでもそんな数あるハードルを乗り越えて(?)日本の読書界に君臨するあるミステリ小説の女王がいる。その名はアガサ・クリスティー、もう紹介するのも陳腐なくらい有名ですね。
ポワロにミス・マープルに『そして誰もいなくなった』に『オリエント急行殺人事件』などで知られる推理小説界の巨匠です、超大型巨人です。
『アフター・アガサ・クリスティー 犯罪小説を書き継ぐ女性作家たち』はそんな推理小説界に君臨するアガサ・クリスティーの魅力と、その後継者たちを包括的に、かつ8つの視点から紹介する野心的な一冊だ。
批評としてもブックガイドとしてもおすすめ。ただし、紹介されてる本が気になって、ついググってそのままお買いあげなんて事にもなりやすいので、そこはあしからず。
総括と8つの視点で語られる女性と犯罪小説
本書は合計12章で成り立っており、最初の二章が総括と議論のポイント、そのあとがアガサ・クリスティーの魅力紹介、残りが8つの視点からなる現代の女性作家たちが手がける推理小説についての分析となっている。
以下ざっくりと最初のポイントだけご紹介。
女性が犯罪小説を好きなわけ
そもそも女性がこの世界で生きていくのって大変だ。社会の構造からくる差別に苦しみ、身近にいる男性からの偏見に苦しみ、それが当たり前だと思わされてる現状に苦しむ。
夜出歩いても、人気のない場所を歩いても危ないし、国や宗教や場所によっては女というだけで出入りできない場所もある。
女というだけで生きるのは面倒であり、様々な危険に常に身を晒されているのは自明すぎる事実だ。そんな女性たちは同じ女性の登場人物が傷つき、殺される犯罪小説が大好きだ。現在のイギリスの推理小説のマーケットを牽引するのは女性読者なのである。
これってどういう事なんだろう、そんな疑問から著者は女性と殺人や謎解き、探偵が登場する犯罪小説の関係を分析していく。
ロールモデルに、カタルシス、女性と犯罪小説の危なくて素敵な関係
改めて言う必要もないけど、はっきり言って女ってだけで人生クソだわってところに前提がある。だからこそ女性は犯罪小説を読みたくなる。自分と同じような立場にある女性や、ロールモデルになりそうな女性キャラが困難な立場をどう克服し、危機を乗り越えていくかという物語がそこにはあるから。
犯罪小説もとい推理小説は、事件という謎を探偵という英雄が解決して物事が解決する定形がある。つまり終わりなき日常の鬱陶しさから開放されて、物事が解決する快感を味わえる。
犯罪小説は身近な世界を舞台にするだけに、ロールモデルになるキャラも登場すれば身近な知り合いに似た人間も登場する。現実では仕返し出来ないムカつく奴が痛い目にあうし、事件の犯人は最後には裁かれる。
犯罪小説はこの現実世界への超強力な解毒剤なのである。
っていうと良くあるパターンって思うじゃん?私のへっぽこ要点だとそんなもんだ。だけども、だけどもさ、作者が綴った本書を読めば分かるから!もっと具体的な数値や作家名を取り上げて、この問題を分析してるから騙されたと思って手にとってみて欲しい。
総論のあとにくる現代の女性作家が生み出す広大な犯罪小説の世界の幅広さにびっくりするから!引用するとこんな感じ。
どうです、結構お腹いっぱいになりません?特に後半にいけばいくほどフェミニズム的な視線や、ジェンダー、人種などの様々な差別の視点が入ってきて作者の気概が伺える。
インタビューや調査大変だったんだろうなぁと、読んでて脱帽しちゃう。こんな充実した内容がこんなお手軽に読めるなんてありがたい限りだ。
犯罪小説界の女王にして最高峰、アガサ・クリスティー
さて最後にやっぱりアガサ・クリスティーのお話。これは本書のハイライトなのでぜひ、お手にとって読んでみて頂きたい。
アガサ・クリスティーの作品をたくさん読んでる人も、まだ読んだことない超幸運な人も繰り出される話題が楽しめるはずだ。特にミス・マープルがお好きな方ならぜひとも!ここだけでもぜひとも!と押し売りしたくなるほどの楽しさです。
一見か弱いおばあちゃんが、辛辣で観察眼に富んだウルトラ一級の探偵というアガサ・クリスティーのキャラ付けの魅力がこれでもかって、語られてるから。格好いいおばあちゃんが好きならばぜひ!
最後に好きなアガサ・クリスティーの本を晒してこの記事は終わりにします。
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