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夢想堂、春夏冬中【健太郎の夢】④
健太郎くんの『夢』を撮り終えて、意気揚々と夢想堂に戻ってきた僕らは、店の前の異様な光景に殺気を覚えた。
薄暗くなった街中にあって夢想堂の一角だけが、たくさんの赤色灯によって昼間のようなオレンジ色に包まれていた。
悪役軍団である僕らのワンボックスカーは数名の警察官に取り囲まれた。
「エンジンを切って、ゆっくり降りて下さい」
一人の警察官が、運転席の佳代さんに声をかけた。
「言われなくたって降りるわい」
満さんが後部席から悪態をつくように言った。
「満さん、黙って」
英二さんが満さんをたしなめるように言うと、二人の間にいた健太郎くんは口を真一文字に固くしたまま、警察官を睨んだ。睨まれた警察官は、じっと確認するかのように健太郎くんの顔を見つめ返した。
僕らは、夢想堂に到着してから何分とかからないうちに、管轄の警察署へ連行された。悪党の一網打尽とは、このような光景なんだろうかとパトカーの後部座席で考えていた。なんだか急におかしくなって、フッと声が出た。
「どうした?」
と、僕の横にいる警察官が顔を覗きこんだ。
「いえ、なんでもありません」
と僕は答えたが、本当はこんなにスリリングで面白い体験をするのが初めてで、楽しくなっていたのだ。
それは健太郎くんも同じだったようだ。迎えにきていた両親に、とても貴重で楽しい経験をさせてもらったのだと、熱く説明していた。それでも、健太郎くんの父親は激高しており、僕らを『未成年略取誘拐罪』で訴えると言った。
「僕は、連れ去られたのでもなく、誘拐されたのでもない。佳代姉ちゃんたちに遊んでもらっていたんだ」
と健太郎くんは、瞳を潤ませながら父親に反論した。
「大人五人に連れ回されただけだろ」
健太郎くんの父親は仁王立ちした状態で、息子を見下ろしている。
「いつも、そう」
「何?」
健太郎くんは警察官を睨んだ時よりも、さらに怒りを込めた表情で父親を見上げた。
「お父さんは、初めから決めつける。自分だけが正しいって」
そう言った健太郎くんの頬に一筋の涙がこぼれた。
「家に帰りたくない。僕は、夢想堂にいたい」
「何を言ってるんだ」
父親は、健太郎くんの腕を掴んで、無理やり立たそうとした。
「お父さん、落ち着いて。息子さんの話をじっくり聞きましょう」
と、女性の警察官が健太郎くんから父親を引き離した。
警察署に連行された所要時間は数分だったが、出てこれたのは丸一日かかった。一人ひとりの事情聴取と、健太郎くんの証言から事件性がないことが証明できたので、無事に解放された。だけど、夢想堂は警察から要注意企業としてマークされることになってしまった。
健太郎くんは、両親との誤解が解けない状態で自宅へ戻ることになった。
佳代さんが健太郎くんの両親に頭を下げ、ゆっくりと顔上げたあと愛情を込めた声で、健太郎くんに話しかけた。
「健太郎くん。あなたの夢の作品は、ちゃんと責任をもって仕上げるから、待ってて。絶対にいいものにしてあげるから」
「代金請求されても、お支払いできませんよ」
健太郎くんの母親が冷たく言い放つ。
「ええ代金は頂戴いたしません。夢に値段はつけられませんもの」
つづく
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