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小説を書くための補助線

小説を書いているときに、他の小説や映画を頭に浮かべていることがあります。村上春樹さんは「ねじまき鳥クロニクル」の夫婦のシーンを書いているときに、漱石の「門」に出てくる夫婦を思い浮かべていたそうです。
もちろん、剽窃ではないのですが、過去の小説が持つ雰囲気を纏いながら書くことで、小説の指針が見えてきたりします。

7月18日刊行の「夏のピルグリム」を書いているときに思い浮かべていた話は、「夏の庭」と「西の魔女が死んだ」でした。どちらも、いうまでもなく子供が主人公の名作で、長い間子供だけではなく大人にも読み継がれている作品です。
夏のピルグリム」は13歳の少女夏子が主人公です。内気な夏子はどこのクラスにでもいそうな女の子で、推し仲間であるマチひとりが友達で、家では妹のチイちゃんと人形遊びをして過ごしていました。
著者は男性なので、13歳の女の子の考えは想像するしかありません。その想像のよすがになっていたのが、それらの児童文学(といっていいのかな)です。
内容や文体が似ているかと言われれば、全然に似ていないのですが、なんでしょう、そういった作品が、小説を書くための補助線みたいな役割をするようです。

途中から夏子は旅に出ますが、そのシーンを書いているときに思い浮かべていたのは、「スタンド・バイ・ミー」です。キング御大が描く少年たちの冒険の物語です。僕にとってかけがえのない作品で、この小説を読んで(映画も素敵です)、いつかはロードノベルを描きたいとずっと思っていました。
夏のピルグリム」には不良グループも拳銃も出てきませんが、友人とどこかへ向かうというシチュエーションは同じです。

参考図書にあげるほどではないと思いますが、そうした補助線的役割になる物語があると筆が進むような気がします。
そのためには、補助線になる物語をたくさん自分の中に染み込ませておく必要があります。
小説の指南書では、「まずは他の作品を読め」と大抵書いてありますが、名作から文章やストーリーメイキングを学ぶだけではなく、多くの物語を自分の中に取り込むことで、いざ自分が書くときに道案内をしてくれるかもしれません。

著者初の単行本形式の小説「夏のピルグリム」がポプラ社より7月18日に刊行されます。「ポプラ社小説新人賞」奨励賞受賞作です。よろしかったら予約してください。善い物語です!

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