
書く喜び、読まれる喜び
なぜ時間をかけて、ときに魂を削ってまで小説を書くのは、単純に書くのが楽しいからです。
なにもないところから世界と人物を創造し、物語として組み立てることは、なによりも楽しいことです。
書くことが苦しいと思ったことはほとんどないですが、もっとも面白いのは、ゾーンに入ったときと書き終わり「了」をつけた瞬間です。
ゾーンとは、書いているときに集中してきて、周りがなにも見えなくなり、小説内に入り込み、ただ登場人物の行動を描写する状態のことです。
ゾーンの中にいると無我夢中なのですが、どこか浮遊した快感が全身を包んでいます。この感覚がたまらなく好きです。
書き終わったときの喜びは、作者なら誰でも共感できると思います。あの瞬間の開放感は最高です。このために書いている人も少ないでしょう。
書くのも楽しいですが、読まれるのも楽しいです。
誰かに読まれて楽しんでもらえるように書いているので、小説は他人に読まれて完結すると僕は思っています。
もちろん、自分が好きなように書くのが小説だという考えを否定はしません。小説は多種多様ですから。
それでも、僕は自分が書いた小説を多くの人に読んでほしいと思っています。自己顕示欲、承認欲と言われればそうかもしれませんし、商業デビューした以上、執筆はビジネスでもあります。
ただ、小説が読まれて感想をもらい、その感想を誰かが見て本を手に取り繋がっていく感覚、本を閉じれば忘れてしまうだろうけどその瞬間だけ人の心が少しだけ揺らぐ光景を想像することが嬉しく、その波動が静かに広がっていく光景がとても好きです。
それはお金に換算できるものではありません。お金が欲しいなら、小説執筆ほどタイパが悪く、リスクが大きいものはないですからね。
書いて読まれる、そして、また書く。その反復こそが小説を執筆することだと思います。
著者初の単行本形式の小説「夏のピルグリム」がポプラ社より発売中です。「ポプラ社小説新人賞」奨励賞受賞作です。よろしかったら書店で手に取ってみてください。善い物語です!