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書店が消えると新人作家もいなくなる

40年続いた近所の書店が営業を終了しました。

この書店に限らず、毎日のように書店が閉業する報告をXで見かけます。この10年で書店の数は半減し、書店がない地方自治体も増えています。
経済産業省も危機感を抱いていて、地方の書店振興に向けたプロジェクトチームを立ち上げて調査を続けているところです。
民間事業である書店を税金で救済することについて反対意見もあると思います。書店が減っているのは需要がないからで、望まれていないビジネスが廃れるのは経済的には正しいという意見もあるでしょう。
また、電子書籍に移行したコミックは過去最大の売り上げを記録しているのだから、小説やその他の書籍も同様に電子書籍に移行すれば良いし、それができないのは怠慢だという意見もあると思います。

それらの意見を否定はできません。IT業界にいた頃なら、僕もデジタル化に乗り遅れたのが原因とか言っていたかもしれません。
でも、商業デビューした今の考えはちょっと違います。書店の消滅は、出版業界全体に大きな影響を及ぼすことだと理解しているからです。
Amazonなどのネットショップがあるし、コミックのように電子書籍に移行すれば良いという意見はもっともなのですが、書店がなくなって一番困るクリエイターは新人小説家です(もちろん、書店も出版社も困るのですが)。
ネット書店は、書店のように多くの書籍を陳列できません。ネットでは、好きな作家や話題になった本を検索して指名買いすることが多いのではないでしょうか。
街の書店には、新人作家の本も店頭に並んでいるので、装丁を見たり冒頭を読んだりして偶然出会った本を手に取ってもらえる機会があります。
「面白い本はないかな」と、なにを買うか決めずに書店へ赴く人は多いんじゃないですかね。
以前、書店の経営者が、「本の利幅は小さいが、書店は多くの人がふらりと訪れる。だから文具やさまざまなグッズを販売して商売になる」と話していました(これも数年前のことなので、現状はそのスキームもかなり怪しくなっていますが)。
だけど、ネット書店は仕組み上、ふらりと訪れてお目当てじゃない本に出会うことが少ないです。まず目につく本の数が少ないです。スマホの画面に一度に表示される書影には限界があります。
表示される本はSEOやサイトのロジックで管理されているので、人気のない本は永遠に表示されません。
Amazonなどで新刊コーナーとかあまり見ないですよね。

リアルな書店が減り、ネット書店へ移行すると、新人小説家の本は売れなくなります。指名買いされる人気作家の売り上げはあまり変わらないかもしれませんが、新人の本は人の目につかなくなりますので、致命的です。
当然、出版社は新人の本を刊行することに及び腰になります。
こうして、新人小説家がデビューできる機会は今よりも減ることが予想されます。

「コミックだって同じじゃないか」「電子書籍化しても新人漫画家がデビューできているじゃないか」という意見もあるでしょう。
コミックには雑誌の文化があります。紙の雑誌は大幅減少していますが、「ジャンプ+」など電子書籍化された雑誌があり、新人の作品も掲載されています。
小説にも文芸誌がありますが、まったくの新人の作品が掲載されているケースは少ないです。コミックは持ち込みによるデビューする文化が残っていますが、小説の世界では持ち込みからデビューする作家はほとんどいないはずです(多分)。
コミックの市場規模は小説よりもはるかに大きいので、新人をデビューさせる余裕みたいなものがあるように思えます(コミックはコミックで大変なこともあり、隣の芝生は青いのかもしれませんが)。

新人小説家のために、書店で本を買って! とは独善的すぎるので言いたくありませんが、書店を失うということは、新しい書物に出会う機会を失い、大袈裟に言えば文化の多様性を喪失することになります。
新人作家の僕ができることは、善い小説を書いて、ひとりでも多くの人を書店に足を向けてもらうことだけですが、もう少しキャリアを重ねることができたら、別の方法でも貢献できたらと思っています。
そのときには手遅れになっていないことを願いつつ。

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