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読者のことを考えて、小説の視点数を決める

小説の型式を決めるもっとも重要な要素のひとつは、視点の数だと思います。
一元視点なのか複数視点なのか、どちらの視点をとるかによって、小説の型が決まります。
一元視点とは、常にひとりの視点から物語を見る型式で、複数視点は2名以上の登場人物の視点が入れ替わって風景や心象を描写する型式です。
小説の型というと、一人称か三人称かが議論されがちですが、一人称でも三人称でも一元視点なら、ひとりの視点から語られるので、物語の型は大きく変わりません。大抵の場合、一元視点=主人公の視点ですので、主人公の行動と心情だけが描写されます。
ミステリーであれば、主人公が遺体や犯行を目撃し、登場人物に話を聞いて推理することがメインになります。犯人が罪を犯すシーンを描くことはできません。
多元視点なら、主人公がいないシーンや他人の心情を描くことができます。

一元視点か複数視点のどちらを用いるかは、どのような物語を描くかによって決まります。
新しい小説のプロットを作るとき、まずは主人公視点だけで物語が作れるか考えます。一元視点は登場人物を覚えやすいので、読者は読みやすいと思うからです。
主人公がいない場所で起きたことは描けないので、他の登場人物から主人公(イコール読者)が話を聞くことになりますので、迫真ある場面を書きにくいことがあります。
また、主人公が知らないことは読者も知らないことになるので、読者を驚かせるためには主人公も驚かせないといけません。主人公に内緒しつつ、どこかで匂わせるような描写が求められます。
どんな内容でも、工夫すれば一元視点で描けますが、主人公が体験していないことを他の人から話を聞く回数が増すと、主人公が聞き役に回ることが増え、描写にダイナミックさが失われるので、そういうときは無理せずに多元視点を採用します。
最初は主人公の視点のみで描こうとしていたけど、どうしても多元視点の方が良いときは、基本は主人公視点で描き、途中で他の人の視点をショートリリーフ的に使うようにします。あくまでもメインは一元視点です。

複数の視点が頻繁に入れ替わるのは群像劇に多いですね。主人公がひとりではなかったり、犯罪小説のように犯罪者と警察、主人公と複数視点から語らないと物語の描写が難しかったりする場合です。

今まで書いた小説は、一元視点かちょっとだけ多元視点が多いです。自著では、群像劇である「Orkシリーズ」の「箱の中の優しい世界」は多元視点を用いています。OrkシリーズはIT業界を巻き込んだサスペンス小説なので舞台が大きく、複数視点がないと描ききれなかったからです。

今書いている作品は、最初一元視点を採用していましたが、どうしてもラストで他の視点が欲しくなったので(その方が効果的だと思うので)、急遽別の視点を追加しました。別視点が描いた方が読みやすい場面が他にもあったので、主人公以外の視点を徐々に増やすことにしました。
途中で突然視点が変わると読者が混乱するので、新たな視点の導入は慎重にしています。誰が語っているか名前を明示するなどして、読者が混乱しないように工夫する必要があります。
読者に多少負荷を与えることになっても、新たな視点を用いるべきか吟味して判断していますが、他の人はどのように視点を選んでいるのでしょう。

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