古謡から読み解く家造りの情景#1 沖縄島_前編|Studies
この文章は別のサイトに掲載されていたものを、少し編集して転載しています。
沖縄の建築儀礼
家が建てられるときの建築儀礼は全国的にみられます。沖縄も例外ではなく、昔はかなり特徴的な儀礼が各地にありました。概ね次のような流れで行われました。
①屋敷の御願
②手斧立て(ティンダティ)
③柱立て(ハーヤーダティ)
④棟上げ(ンニアギ)
⑤屋根葺き(ヤーフチ)
⑥落成祝い(スビユエー)
各段階で棟梁や家主、神人などが取り仕切って、祈願や祝い事を行いました。それぞれの過程では祝詞・呪詞(オタカベ、ミセセル等)や神歌(ウムイ、クェーナ等)が謡われ、おごそかな雰囲気に包まれていたと想像できます。
家造り(ヤーチュクイ)に関わる歌謡については、『南島歌謡大成』(注1)に収録されたものを私たちは目にすることができます。この本は外間守善、玉城政美の両氏が文献や史料、フィールドワークによる採集資料を集大成した大著で、伝承されてきた古謡を網羅的にテキストとして収めたものです。
『南島歌謡大成』(沖縄篇上)の中からいくつかを紹介します。
木の(山の)精霊を鎮める
家つくりの祝詞(島尻郡大里村辺)
このオタカベの形式は島尻郡に限らず各地でよくみられるものです。歌の中に「クジラ」「ワニ」「サメ」(注2)がでてくるところが特徴的ですが、これは柱や桁などの木材に宿っている精霊をおどかして追い出す=山に帰ってもらうための表現だと考えられています。
山から切り出した木には精霊が宿っていて、そこに住む人間に害を与えることを昔の人は心配していたのです。
次の祝詞はそれに関連するもので、屋敷木を切り倒すときに、木の精に根元で留まって外に出ないように言い聞かせているものです。「木の精を鎮めるために、木の根元に酒、花米を供えて祈願する」と補注されています。
屋敷内の古木を切り倒す時の祈願(読谷村座喜味)
昔は屋敷内のフクギやイヌマキなどの樹木を、新築・改築時の住居の材木として利用することが広く行われていました。伐採された木は一定期間、土に埋めたり水につけたりして、暴れないように安定させていました。防腐や虫よけの効用もあったそうです。
<注釈>
『南島歌謡大成』は沖縄篇上・下、宮古篇、八重山篇、奄美篇の全5巻からなる。1978年から80年にかけて角川書店より刊行された。
ワニサバ=獰猛な鮫とも考えられる。