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明日のために今日を犠牲にするな|「その日暮らし」の人類学 |Review

『「その日暮らし」の人類学 ―—もう一つの資本主義経済』
小川さやか著、光文社新書、2016年

レビュー2018.11.26/書籍★★★★☆

私たちはしばしば「働かない」ことに憧れながらも、成果を追い求め、今を犠牲にしてゴールを目指す。しかし世界には、そうした成果主義や資本主義とは異なる価値観で人びとが豊かに生きる社会がたくさんある。「貧しさ」がないアマゾンの先住民、気軽に仕事を転々とするアフリカ都市民、海賊行為が切り開く新しい経済圏……。彼らの生き残り戦略から、働き方、人とのつながり、時間的価値観をふくめた生き方を問い直す。

本書カバー紹介文より

最近のポスト資本主義の議論は、脱成長論だったりその逆の加速主義だったりの資本主義の終焉後を措定しているが、この本はいま現在の資本主義経済のオルタナティブを紹介していると思う。

◆気になるワード
直接体験の原則/最少生計努力/生計多様化/殺到する経済/法的な違法性と道義的な合法性/エム・ペサ/組織化を目的としない連携

◆ためになった考え方
コピー商品などインフォーマル経済は「下からのグローバル化」という意義があり、経済的な弱者が情報化・都市的ライフスタイルにキャッチアップするための手段だから完全悪ではない。むしろ行き過ぎた知財主張のほうが強欲的で、歪んだ資本主義ではないか? 

⇒なるほど、全面的にではないがかなり納得できる。ちなみにタンザニアでバランスを取っているのが「法的な違法性と道義的な合法性」という思考方法なのだそうだ。法と道徳、あなたはどっちをとりますか?

生計多様化戦略のうちどれかが成功するだろう、家族や友達の誰かが成功すればしばらくは生活できるよね、という不確実性の高さを、不安と感じずに、生きる醍醐味と感じている。このような計画性や効率性を重視しない経済システムや労働観によって、無数の雇用(個人ビジネス)が生み出される。 

⇒これが、正規雇用市場が発達していないことの消去法的反応ではなく、タンザニア人が選びとった純粋な新自由主義だととらえるのが正しい読み方なのだろう。ワークシェアリングともどこか通じる気がする。

「努力することよりもYouTuberのように時代の潮流を軽やかに渡り歩く柔軟な姿勢が尊ばれる時代になっていないとも限らない。いや、現になりつつある今、本書に登場する狩猟採集民ピダハンやタンザニアの彼らの生き方がよりよく生きる為のヒントになるだろう。」

⇒これ、アマゾン購入サイトのはぐれメタルスマイルさんのレビューからの引用。核心を言い当てていると思う。労働時間が減り、機嫌のいい上司が望まれる昨今の日本の労働環境では、努力することよりも、楽しく要領よく仕事をこなして定時に帰ることが優先される。AI労働力だってそんなものだろう。誰も資本家のために働かなくなったら資本主義は確実に変わるでしょう。お待ちしております。

◆最後に一言
Living for Todayは「蓄えない経済」の一形態。蓄えないがゆえに、リスクヘッジとして「(金銭等の)借り」で対処するが、その借りは広く浅く、つまり少額を多くの人からなので、膨大な個人ネットワークに支えられていることになる。これって「人間大好き社会」でないと成り立たないよね、と思った。

(過去サイトから転居してきた文章をベースに書いてます。)


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