トウモロコシには耳がある|Field-note
コーンポタージュって、あれ、紫色のトウモロコシでつくったら悲惨なことになりますよね~
若い頃、中米のある国でトウモロコシ/maízの品種調査をしたことがある。非農民を含む地域住民約80名に知ってる品種を書き込んでもらったところ、その数は70近くに及んだ。さすがは原産地(に近いところ)だけあって、コーンへの親密度が違う。WON'T BE LONG♬だね。
ある文化に固有な知識のことを民俗知識という。伝統的な民俗知識の多くは「科学的でない」とか「時代遅れで役に立たない」という評価を下されがちだが、われわれの価値基準とは別のところで当該の人々の生活を支えている。 知識はあくまで相対的なものであって、等価値に存在するのである。
さて、件のトウモロコシ品種が多すぎる問題についてだが、これは民俗知識のなかでも、民俗分類(ある文化集団における事物の分類・命名の仕方。英語でfolk taxonomy)の範疇だ。一般に、農耕社会では技術改良から、あるいは作物自身の生存戦略から、主要作物は様々な品種を抱えるようになる。 この国の場合、トウモロコシの分類に文化の特徴や作物の性質が反映されていると思われる。
①色に基づく分類
いくつかのトウモロコシの名前は色を基にしており、それは科学的分類法とは異なる形で農民の知恵や経験にねざしている。特定の色素には、健康に有益な成分が含まれることがあり、色の違いは栄養価の違いを反映している可能性がある。
また、色にはしばしば宗教的または文化的な象徴性が付随する。メキシコでは、白、黄、赤、黒のそれぞれのトウモロコシが四方を象徴すると考える地域(文明)がある。
②背丈や形状に基づく分類
形や茎の高さなど作物の形質を反映した名称がある。農民たちは、栽培条件に応じて最適な作物を選んで栽培してきており、これらは、品種改良や地域ごとの環境への適応を反映していることも考えられる。
③用途・機能に基づく分類
調理用、飼料用など、いくつかの名前はトウモロコシの用途に関連している。女性の場合は、料理法に特色がある品種をあげたり説明したりすることが多かったのも、これと関連するだろう。
④地域に基づく分類
これらは、各地の固有の品種が伝播もしくは移入によって伝わったことを示している。
⑤品種改良に基づく分類
改良された品種であることを示す名前もみられる。数字やコードは、特定の研究機関や企業が開発した品種を示している可能性がある。
⑥由来不明の名称
一部の名前は特定の意味や由来が明確でないものの、地元の方言や栽培者が愛着をこめた呼び名が含まれると思われる。
人々の分類様式は多様であり、人によって呼び方の基準が異なる。それがため、ひとつの種がいくつかの名を持つ。70種挙げられたからと言って、それら全てが実際に種として存在するわけではないのだ。
また、農地に基づく分類はなかった。これはトウモロコシが耕作条件にあまり左右されない、いいかえればかなり劣悪な土地でも栽培されているからかもしれない。そうでなければオルメカ以来の長い期間、メソアメリカの人口を支えることはできなかっただろう。
最後に、トウモロコシの種蒔きの時期についての伝承をひとつ。
「わしらは月の動きをみながら種を蒔く。新月から5~7日目はその時期で、8日目はダメだ。もし蒔いたらだって? そしたら茎が大きくなりすぎて穂が小さくなっちまうのさ。9日目から種蒔きを再開する。これは下弦の月のときも一緒じゃよ。茎折りは7日目と9日目にやる。そうすると虫にやられないからのう」