【映画 解体真書】 1.「ディア・ハンター」(78・米)
作品の本質はまるで万華鏡のようだ。つまり、真摯に観る度に感じる稜線が、その辿る末路が異なる。余りにも重層的な創造を施されている為に、その時々で自らの内面に響くところが相違する。けれども、マイケル・チミノの終生の主題である「男同士の友情」が不動の刻印として丹念に彫り込まれていることに何ら変わりはない。
しかし、作品を考察する上において辿る稜線の途上に必ず杭がある。これは第三幕にて起伏する。
それはニック(クリストファー・ウォーケン)がヴェトナムにおいてM・I・A(戦闘中行方不明)となり失踪する。そこからのニックの生き方であるが、極めて複雑であり曖昧でもある様を呈している。けれども、ニックに過大な影響を与えたのは戦争でありヴェトナムである。そこでマイケル(ロバート・デ・ニーロ)がヴェトナムに再度向かう。ニックを捜索する為に。
ここに隠喩する〈キー〉がある。それはジョン・フォードの『捜索者』である。
『捜索者』は姪をインディアンのコマンチ族に攫われた主人公が捜し尽くすことを主軸とする物語である。主人公がついに姪を発見すると、まさに姪がコマンチ族の――という終幕を迎える。
この〈キー〉が仄めかすことは、作品に確かに顕在化されている。
それはヴェトナムに囚われたニックに偏向がもたらされる。敢えて表現するならば、彼は正気を失っていく。そこにヴェトナムの慣習(として作中に描かれた[ロシアン・ルーレット])が絡みつつ止まることなく深みに嵌っていく様態が生じる。
その〈キー〉ゆえに、チミノの壮絶な創造は作品に強靭な力を漲らせ衝撃を発揮する。
特に、第三幕において、酷烈な運命が登場人物を襲う。中心としてマイケルとニックに。二人は終幕に向けて「友情」という美しくも儚い絆で繋がりつづける。
そこに直喩する〈キー〉がある。これこそがチミノの主題を確固たるものとする。
「男同士の友情」とは何か、と。
マイケルがついにニックを発見すると、まさに彼は――と、そこから二人の「友情」の真価が問われる。それはその証が生死を賭す形において。それが真の心であれば、それ故に、まさに生死を別つ。
チミノは〈キー〉により生涯の作品を全てに渡り同一の主題において追究する。
「男同士の友情」――それは永遠に語り継がれるに足る。