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粟ヶ岳にて「山笑う」

雨が続いたかと思えば晴れ渡り、汗ばむ陽気の翌日は寒気に震え、吹いては止む暴風に振り回されている3月の静岡である。3月18日、よく晴れたので掛川市にある粟ヶ岳に行った。

「故郷やどちらを見ても山笑ふ」(正岡子規)。遠くから眺めた時に枯れ葉色のすすきと常緑の杉しか見えなくても、実際に歩くことで春への変化を感じることができる。姿の見えないうぐいすの鳴き声が響き、木の芽は緑っぽいような、赤っぽいような膨らみを見せ、離れて見ると木全体がぼんやり色づいている。春山は笑い、夏山は滴り、秋山は粧(よそお)い、冬山は眠るという表現は俳句の季語として使われる。もとは中国の古典から来ているそうだ。

「山笑う」という表現がいい。山頂前のつづらで薄暗い杉林を抜けていく。山を吹き渡る風に、杉が枝を揺らして笑っている。白く明るい陽光が木漏れ日となり、舗装されたアスファルトの上でシャボン玉のようにくっついたり離れたりして笑っている。春山ではすべてが笑い声に聞こえてくる。

2024.3/18(掛川市、粟ヶ岳山頂)

山頂は風が強いかと思ったが、驚くほど静かだった。真っ昼間なためか不気味さを感じる静寂だった。ベンチに座りしばらくぼうっとしていると、心の中も静かになっていくのを感じた。虫や鳥の声、水の流れる音、風が木を揺らす笑いに包まれた静寂もいいが、無音という静寂もまたいい。よく笑い、笑い疲れて静かになった心地の贅沢なこと。下山後は菊川市内で中華ランチを食べた。帰りに本屋さんに寄った。

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