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青池で読書、大蛇のこと

ガードレールに絡みつく緑も、乾いたコンクリートも、ただただ灼けて音のない世界が広がっている。依然として残る暑さは、秋へと向かおうとするこちらの足を、這いつくばって掴んできているようだ。

数日前。何を考えたのか、炎天の真っ只中に藤枝市の青池で読書をした。セミの鳴き声がシュワシュワ聞こえるが、ときおり嘘のように音が消えて静寂が広がる。これは本当にセミが泣き止んでいるのか。それとも自分が集中して音が消えたのか。そういえば背後に流れている小川の音まで聞こえないのはおかしい。なんて思っていると、また音が聞こえてくる。

ごちゃっとした緑の中で存在感を放っているのは、白い花を咲かせているタマスダレ。和を思わせる名前から、日本に古くからある花だと思っていたが、調べてみると明治頃に入ってきた外来種だという。

青池には大蛇の伝説が伝わっている。平安時代末期のこと。とある長者の家に賀姫(いわいひめ)という美しい一人娘がいた。ある時期から、賀姫のもとに、素性の知れない美青年が通うようになった。その美青年の正体は、なんと青池に住む大蛇であった。そしてとうとう、賀姫は大蛇によって池の中に引き込まれてしまった。

怒り悲しんだ長者は、焼いた石や鉄をありったけ青池に沈め、池を沸騰させた。すると池の中にいた大蛇も、茹で上がり死んだという。賀姫を弔うため、長者の屋敷は長楽寺というお寺になった。

青池を散歩していて、1m以上はあろうアオダイショウを踏んづけてしまったことがある。思わず「ごめん」と口に出た。アオダイショウは怒った様子もなく、ゆっくりと葦の茂みのなかへ入っていった。青池には、いまでも大きな蛇が住んでいる。

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