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葦原の海【静岡県島田市伊太】

冬は冬らしく。いかにも寒そうにぴゅうぴゅう吹く風の音を聞いていると、身体の芯まで冷えてくるような気持ちになる。

そんな強風続きの静岡。不思議なことに、元旦からの数日は、いつもどこかで無風になる日がある。伊太谷川沿いの散歩道は遮るものがなく、この時期は強い風にさらされる。しかし1月2日は快晴無風の散歩日和だった。

西日に照る矢倉山

風の音、車の音、飛行機の音。いつも何かしらの音に溢れている世界で、時間が止まったように無音になっている瞬間に気づく。風にあおられ、日に日に折れて流れていく立ち枯れの葦も、この日はまっすぐに立っていた。

葦の背丈は自分の身長を越えており、高いものでは2mくらいはありそうだ。群生といえるほどの量はなく、田んぼの一区画に植えられたかのように生えている。しかし奥行きが見えないことで、どこまでも葦原が広がっているように思えてくる。

背後に見えている鉄塔から鉄塔へ、そのまた奥の小さく見える鉄塔の奥まで、ずっとずっと淡黄色の世界が続いているように錯覚する。

「凪(なぎ)」という言葉が頭に浮かんできた。凪とは海から吹く風と、陸から吹く風が切り替わるあいだの、穏やかな海面と無風の状態を指す自然現象のこと。

風がやみ、音が消えた葦原の海。夕凪。立ち止まり、静寂に心の芯まで浸ったときに広がった景色。今よりもっとのんびりした時代には、よく見ていた気がする景色。日々の忙しさに飲まれて、きっとまた忘れていく景色。それでも凪の心境を大切に、静寂のなかにあるものを見逃さないようにしたい。

今週のおすすめ本

『みんなどうやって書いてるの? 10代からの文章レッスン』

作家、詩人、エッセイスト、お笑い芸人、学者など、各界で「書くこと」に携わっている著名人たちが、どんなことを考えながら文章を書いているのか、どんな方法で文章を書いているのかを自由に語ったアンソロジー。

文章を書くにあたってすぐに使えそうな方法もあれば、一風変わった書き方、ひたすら自分語りをしている項もある。文章を書くモチベーションを上げる目的でも、たんなる読み物としても楽しめた。

文章を書くことは自分の感覚を言語化することで、言語化を行うには語彙力が必要。そして語彙力を増やすには本をたくさん読むのがいい。言い方は違えど、複数の書き手が「たくさん読むこと」を推奨していたのが印章に残った。

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