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じゃないほうの人のお話
久しぶりに有楽町で映画を見た。
どれくらい久しぶりかというと、あの「レッドクリフ」以来である。
そう言えば、あのときは会社帰りに前の会社の後輩と一緒に観に行ったのだけど、その彼が甘寧役で出ていた日本人の人気俳優に見た目がそっくりだったので、映画の内容より、終映後、彼が周りの女性たちの視線をやたらと気にしていて、
草(くさ)ー
となった記憶しか残っていない。
今も昔もラーメンもつけめんも好きだけどイケメンだけはどうにも好きになれない性分は変わっていないようだ。
前置きが長くなった。
では、本題に入ろう。
その久しぶりに僕が有楽町で観た映画は、20世紀を代表する有名建築家兼インテリアデザイナーのドキュメンタリーだった。
僕自身、彼の手掛けた家具の大ファンで、実際、ダイニングテーブルとダイニングチェアは彼のものだし、数年前に世田谷あたりで開催された回顧展にも足を運んでいる。
ちなみに僕が彼に関心を示している最大の理由は、
奥様が共同制作者だった
ということだ。
レノン&マッカートニー
キヨシロー&チャボ
ヒロト&マーシー
前野良沢&杉田玄白
藤子&不二雄
ゆで&たまご
などなど、二人の天才が出会い、そのケミカルリアクションで、とんでもない傑作が生まれた
という伝説の類が昔から大好物な僕だけど、そのふたりが異性同士というのはあまり例がなかったから、実際、どんな感じなのかずっと気になっていたのだ。
そしたら、やはりお互いのことをリスペクトしあってたし、そして、それ以上にガチで二人が愛しあっていたという事実に、めちゃくちゃ色々と合点が行ったし、何よりもめちゃくちゃ胸が震えた。
特に、奥さんが若くしてガンでなくなる数年前、そんな未来が自分たちに訪れるなんてまったく想像だにしていない二人が、アメリカとフィンランドの間で交わしていた往復書簡の内容が本当にエモすぎた。
「今まででいちばん、どうしようもないくらいあなたのことを愛してます。」
と彼女はつづり、彼は、
「この世界には何もない。君と僕以外には。だから、帰国したら、君の名前を冠したアトリエを作って、ずっと二人で一緒に好きなものを作り続けよう。」
と語りかける。
しかし、残念ながら、その彼のつつましい夢は永遠に叶わなかった。
そして、まるでそのせいでポッカリと空いた心の穴を必死に埋めようとするかのように、彼は若くて優秀で美しい部下の女性とすぐに再婚し、本当に死ぬ直前まで精力的に働き続けた。
その努力の甲斐もあって、国内の大きなコンペにも勝ったし、歴史に名を残す代表作も数々生み出していった彼は、世界的な名建築家としての名声を確固たるものにしていく。
でも、公私ともに最高のパートナーだった前妻が亡くなって以来、彼の心にぽっかり空いたあの大きな風穴は、結局、生涯埋まらないままだった、ということが、このドキュメンタリーを見ていると痛いくらい伝わってくる。
「彼女と二人だからこそ起こせたあのマジックはもう二度と起こせないんだ。」
僕にはそんな彼の悲痛な叫び声が聞こえてくるような気がしてならなかった。
しかし、まごうことなき凡夫の血族たる僕には、そんな天才の絶望や孤独以上に、亡くなるまで彼にずっと寄り添い続けた
じゃないほうの奥さん
のことがずっと気になっていた。
確かに
どんなに頑張っても、どんなに尽くしても私じゃ駄目なんだ
という残酷な事実を突きつけられながらも、彼のそばにい続けた彼女のおかげで、彼は大きな喪失感を抱えながらもずっと立ち続けられたのだと思うしね。
というか、それこそが、the other oneの彼女の唯一の矜持だったのかもしれない。
だからこそ、彼が病院で亡くなったとき看護師から「旦那様は年金暮らしですか?」となんの気なしに尋ねられた際に
「いいえ!彼は死ぬまで生涯現役でした」
と彼女は激昂したのだと思う。
そう、このドキュメンタリーは、
激しく愛し合いお互いを高め合った二人の天才アーティストの物語
であると同時に
その物語の外にいてずっと憧れの眼差しを浮かべ続けてきた
僕らと同じ
無能の人
の物語でもあったのだ。
結局、僕がこの映画から勝手に受け取ったメッセージというのは、
たとえ傑出した才能に恵まれなくとも
たとえ自分が愛する人の思うような人間になれないことに気づいたとしても
こんなにも誰かを愛することができるという奇跡に感謝しながら、
ひたすら自分以外の誰かを愛し続ける
その決意さえ固めてしまえば
どんな人だって、
等しく幸せになれる
ってことなのかもしれないし、
そうじゃないのかもしれない。
でも、少なくとも僕は、やっぱり、いつまでも子供みたいに
愛されたい
なんて泣き言を言っている暇があったら、
この一向にままならない、ちっとも振り向いてなんてくれない世界を、
そんな世界だからこそ
まるごと全力で愛し尽くせるような
そんな力強さをいつの日か身に着けたい。
だからこそ、無能だろうが、おまえじゃねーよとシカトされようが、ダサかろうが、時々涙と鼻水で顔をグシャグシャにしようが、
それでも間違いなく
この世界に一人しかいない僕
を僕はとことん生きつくしてやろうとは思っている。