拙作「Monument」の書かれ方 #4
およそ5カ月間のご無沙汰になってしまいました。
『拙作「Monument」の書かれ方』、続きを記して参りたいと存じます。
一人称で記されたミステリーとSF。
この2作品を、交互にひたすら模写していく。
そんな日々が、しばらくの間、続きました。
それは、とても楽しいひと時でした。
すでに何度も読み返した作品でしたので、物語はその細部まで映像のように思い浮かべることができます。
そのはずなのに、まだまだ埋もれていたのです。
新たな発見の数々が。
それは、気づけなかった伏線であったり、主人公の気持ちの変化であったり、一つ一つのシーンに込められた細部の描写であったり……。
ほんのわずかな文章。一言、一語に込められた意味合いの深さ。
プロの作品の持つ、凄み、とでもいえばいいのでしょうか。
あらためて、それを目の当たりにし、鳥肌が立ったことも、一度、二度ではありませんでした。
わたしなど、遠く及ぶべくもない世界――そんな、諦めにも似た気持ちもまた、心の隙間に潜り込んできます。
でも、ここで怖気づいても、しかたがありません。
「前へ、前へ」
そう自分を励ましながら模写に向かうのですが、進めば進むほど、その作業が楽しければ楽しいほど、顧みて己が自信もまた、失われていきます。
選んだ二冊の模写が、半ばを過ぎようとした頃だったでしょうか。
その衝動は、唐突にわたしの指を動かしました。
模写の過程で、わたしは、本来の単語を別の単語に置き換え、語尾を変えていました。
我知らず、いつの間にやら。
「いけない、いけない」
元通りの原文に戻して、先を進めるのですが、そんなことが、度々発生するようになりました。
自分の内から湧き上がる衝動に抗えずに。
物語も佳境に達しています。
いちかばちか。
そんな気持ちで、わたしはわたし自身を解き放ってみることにしました。
作家さんの書かれたものを書き換えてしまうなんて……。
プロを差し置いて、なんて、おこがましいことを。
そんな思いも頭をよぎりましたが、「これは、あくまでも自分の文章の練習なんだ」と、そう割り切って続けていくうち、どんどん言葉が紡がれるようになっていきました。自分の言葉で。
最初は、文末や、単語を置き換えるにとどまっていたものが、次第に大胆な変更になり、しまいには原文に存在しない描写の追加や、前後のシーンの入れ替えに進むまで、さして時間はかかりませんでした。
そして、最後まで模写を完了させた後、より文字数の少なかったミステリーの方を最初から読み返し、冒頭部分からのすべてを、自分なりの文章に置き換えるに至った時、わたしは思ったのです。
これと同じことを、書きかけの自分の作品でやってみたらどうなるのだろうか、と。
書きっぱなしで放り出されていた、自分の作品と向き合います。
最初に手を付けたのは、お気に入りのシーンの一節でした。
すると、どうしたことでしょう。
頭の中から言葉があふれ、無味乾燥な砂漠みたいだった文章に、色が付き、風景が描かれ、風が、香りが感じられるではありませんか。
今、思い返しますと、それはまだまだ稚拙なものに過ぎませんでしたが、一方で、「もしかしたら、自分も作品を書き上げられるかもしれない」、という、手ごたえを予感した瞬間でもありました。