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哀しいホスト 第41話 過去への誘惑とミサとの約束、揺れ動くキクの決断

第41話 過去への誘惑とミサとの約束、揺れ動くキクの決断

マキとの再会で、俺の心には再び過去への憧れと未練が生まれていた。ホストとしてナンバー1に登り詰めた日々の刺激と高揚感が、いつの間にか忘れられないものになっていたことに気づかされた。そして何より、マキはその時代の象徴そのもので、彼女の存在が俺を再びあの世界へと引き戻そうとしている。


ある夜、マキからまた誘いが入った。豪華なレストランでの食事や、高級なクラブでの一夜を共にする中で、彼女は次第にその提案の真意を明かし始めた。

「キクさん、私たちで新しいホストクラブを作らない?今のあなたなら、もっといいものを作り上げられるわ」

その誘いはあまりに魅力的で、俺の胸が一気に熱くなった。マキは資金を出すつもりで、本気で俺と再びビジネスを始めたいと考えているようだった。確かに、タケルたちのプロジェクトでエンターテイメントの仕事に携わりながらも、俺の心にはどこか「物足りなさ」を感じていた自分がいた。

「俺がもう一度……ホストクラブを?」

過去の記憶が頭を駆け巡り、心の奥に封じ込めていた野心が再び目を覚まし始めた。


だが、帰宅して一人になると、静かな部屋の中でミサの写真が目に入った。彼女が静かに微笑んでいるその写真に、俺はしばらくの間見入ってしまった。

「ミサ……俺は、また間違った道を進もうとしているのかもしれない」

ミサが亡くなってからというもの、俺は彼女と過ごした穏やかな生活を守り続け、彼女が望んでいた「地に足のついた人生」を送ろうと決意してきたはずだった。だが、今になって過去の輝きや誘惑が再び俺を引き戻そうとしている。

ミサが望んでいたのは、きっとこうした派手さではなく、もっと心の安らぎを感じられる日々だったはずだ。だが、その一方で、もう一度人生に挑戦したいという俺の気持ちもまた本物だった。


その翌日、タケルに会いに行くことにした。タケルは俺が迷いを抱えていることに気づき、黙って俺の話を聞いてくれた。俺はマキの提案と、それによって揺れ動く自分の気持ちを正直に話した。

「お前がまたホストとしての人生に戻りたいと思っているなら、俺は止めない。でも、キク、今のお前にはあの頃の自分を越える方法が別にあるんじゃないか?」

タケルの言葉に俺は少し驚いた。タケルは俺の過去を知り、そして今の俺の変化も知っているからこそ、そう言ってくれたのだろう。

「俺には、新しいやり方がある……」

その言葉を噛み締めるように、俺は考えた。ホストとして再び舞い戻ることだけが、人生の充実を取り戻す道ではないのかもしれない。ミサが願ってくれたように、穏やかな人生の中で、もっと違った形で人々に何かを与えることができるかもしれない。


だがその夜、マキから再びメッセージが届いた。

「あなたにはもっと輝く力がある。昔のように、もっと夢を持っていいのよ」

その甘い言葉に、再び心が揺れ動いた。タケルと話したことで一度は落ち着いた気持ちだったが、彼女からの誘いを断り切れない自分がいた。俺の中で、ホスト時代の「輝き」と、ミサとの日々で得た「安らぎ」が衝突し続けていた。

「本当に、俺は何を選べばいいんだ?」

その夜は眠れず、ただ何度も何度も自分の進むべき道について考え続けた。過去の栄光を捨てきれない自分と、穏やかな生活を守りたい自分!この二つの葛藤が、俺の心を締めつけ続けた。


翌日、俺は再びミサの墓前に立った。

「ミサ……俺は今、再び過去の自分に戻るべきなのか、それとも、お前との約束を守って進むべきなのか分からなくなっている」

ミサの微笑みが、静かに俺の心を落ち着かせてくれるような気がした。彼女の最後の言葉を思い出す「あなたは強い人だから」。あの言葉が、俺に向けられた信頼と愛情の証だった。

「そうだな、ミサ。お前がいてくれたから、俺は強くなれた。今の俺には、あの頃の生き方はもう必要ないのかもしれない」

心の中でそう語りかけた瞬間、俺は自分の選ぶべき道が見えたような気がした。ミサが望んでいたのは、俺がもう一度挑戦することではなく、地に足のついた人生を歩むことだったのだ。


帰宅後、俺はマキに連絡を入れ、彼女の誘いを断ることにした。

「マキ、俺はもうあの生活には戻れない。ミサがくれた穏やかな時間を大切にしながら生きていくつもりだ」

彼女はしばらく黙っていたが、静かに「分かったわ」とだけ答えた。彼女もまた、俺の選んだ道を理解し、受け入れてくれたのだろう。

こうして俺は、再び自分の人生に決着をつけ、地道な生活を選び取った。ミサへの感謝とともに、新たな一歩を踏み出す決意を固めたのだ。


つづく

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