詩⑦「ものがたり」
早朝 めがさめると
枕元に 母が立っていた
もちろん 足はある
時計は五時を少し回ったところだ
枕元で 母がいう
わたし 会社にいかなくていいんだよね
十年以上まえに 亡くなった父の会社のことらしい
心細そうに 母がいう
会社あったっけ
ないよ
いかなくて いんだよね
いかなくていいよ
床をこするような足音が
薄闇の廊下にきえていき
やがて 静かになった
わたしは 眠れなくなった
夜間せんもう
ひとことでいえば それだけど
母は 母の物語に 生きているのかもしれない
私が 私の物語に 生きているように
重い頭を枕にのせながら
そんなことを思った
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