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ははのアイ

これは私が聞いた話です。彼女は、2か月後に赤ちゃんが生まれる妊婦さんでした。

 彼女は、小学六年生の頃に仲の良かった友人の死を目の前で見てしまったそうです。もちろん、彼女は消えない悲しみを持っていますがそれ以上の恐怖、一種の「トラウマ」をその日その現場で植え付けられてしまったそうです。

 彼女は当時、買い物の帰りに友人であるAちゃんがお母さんと歩いている姿を発見して手を振ります。

「Aちゃん!お買い物?」

大きな声で信号の先にいるAちゃんを呼びました。Aちゃんは、

「そうだよ!」

と元気に手を振りながら、青信号に変わったことを確認して彼女のもとに走っていきました。Aちゃんのお母さんは優しそうに微笑みながら、

「走ったら危ないわよ。」

と注意していました。

 その時、

キキィィッッッ!!!!!!

けたたましいブレーキ音と共に黒い車がAちゃんにぶつかってきました。

 一瞬が何時間のように感じたそうです。遅れて、

「いやぁぁ!A!!!!」

Aちゃんのお母さんの叫び声が聞こえて我に返り、Aちゃんのもとに走っていきます。周りにいた大人は、

「何やっているんだ!信号赤だぞ!!」

「大丈夫か?!」

と叫んでいます。

 彼女の目に入ったのは、両足を失い声にならない声で助けを求めているAちゃんでした。

彼女は、とてつもない吐き気を催してしまったそうです。しかし、この現場で何よりも異質だったのはAちゃんのお母さんが笑っていることです。叫んでからしばらくして笑い出したのです。

「あはははははは。」

あの時のお母さんの顔は今も夢に出てくるそうです。口元は笑い、目は焦点が合わず笑っていないのです。

「早く救急車を呼べ!」

隣にいた男性がそう叫ぶとお母さんは、

「なんで?やめて!このまま生きてどうなるの?死んでほしいの!こうなったら娘なんていらないから!」

そう言って近くにあった大きめの石で、うめいているAちゃんの頭を何度も叩きだしました。

「やめろ!お前母親だろ!」

「母親だから何!こんなのもうめんどくさいだけ!」

たくさんの大人にお母さんは取り押さえられました。

 呆然としていると救急車が到着して、Aちゃんは病院に運ばれて行きました。その日の夜に彼女は母から聞いたそうですがAちゃんは事故が原因で亡くなったそうです。

 今でもあの時の、芋虫のように動くAちゃんと、Aちゃんのお母さんの顔、そして殴られている時のAちゃんの顔は忘れることが出来ないそうです。

 

 彼女は、2か月後に母親になるそうです。貴方はどうですかね?欠損した大切な人をどう見ますか?
そして何よりも私はこれを聞いて恐ろしくなりました。彼女は、なぜこのタイミングでこの話をしてくれたのでしょうか?

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