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彼は何を聴いたのか

これは私が知人から聞いた話です。

 彼は西日本の田舎出身だったそうです。地元の高校に通っていた時、クラスメートから肝試しに行った話を聞いたそうです。

「あれは怖かったな。」

「もう行きたくないよ。」

と友人たちが楽しそうに話していたそうです。

彼は、卒業までの最後の夏を楽しみたいと特に仲の良い友人グループと肝試しに行ってみようと持ち掛けたそうです。

 

「高校時代最後の夏だしよ。せっかくだから肝試しに行かないか?」

いつものグループは僕を含めて4人組だ。ここでは、心霊系を信じないA・特に怖くないけれど信じてもないB・心霊はとても苦手なCだ。

「面白そうだな!行ってみようぜ!」

早速Aはのっかってきた。

「心霊スポットいった後はAの家で泊まろうぜ。」

遊ぶ気になっているB。

「マジで無理だわ!絶対俺はいかない!」

肝試しに完全に反対なC。

しかし、何とかCを説得して肝試しに行くことにした。

近くに心霊スポットはないので、昔からある少し不気味な霊園に向かうことにした。自転車で行っても面白くないと、徒歩で向かうことにした。僕の家から向かうことにしたが、まず裏山の脇を抜けて暗い道を進み小さな林を抜けると墓地につくことが出来る。

 僕たちは一人ずつ懐中電灯を手にして歩いて行った。全く信じていないAが会話を回して2列になりながら笑いあって進んだ。しかし位抜け道を抜けたところで僕らは息をのんだ。小さな林は、4人で一列にならなくては通れない程道が狭くなっていた。

 先程まではみんなで笑いながらだったが、誰も会話をしなくなった。Aですら緊張した顔で前を歩く。A・B・C・僕の順番で歩いている。周りはかなり暗く、手元の懐中電灯がなければ何も見えないだろう。早くこの林から出たいとみんな歩く速度が速くなる。しかし、僕は気づいてしまった。僕だけではなく、Cもだった。Cが言おうとしたとき、Aが口を開いた。

「何か聞こえても見えても言うなよ。」

Cは涙目だ。僕も気づいている。何かいる。僕の後ろに。振り向くことはできない。一本道で横に抜ける道はないので、進むしかない。

進み続けると一般道に出た。少ないけれど街灯もある。僕は少しほっとして、気配も消え後ろを振り向く。

「なんだよ。ビビったわ!」

笑いながらみんなの方を向くと。一気に緊張がほぐれたのか3人も笑っている。しかし、ここはゴールではない。出たところはなんと火葬場だった。僕らはまた恐怖が込みあがってくる。それでも進んだ。

 霊園に向かう道は二つに分かれた道で続いている。ワイ字の道の間には小さな池がある。

左の道は大きく墓地に続いている。右の道は細く鳥居とお地蔵様が2体ある。こっちの道は2列でようやく通れるほどだった。

「このまま墓地に行って少ししてから帰るか。」

Aが言うと

「うわぁぁぁぁぁぁぁ。」

おぞましい叫び声が耳元で聞こえた。そこにいた4人はみんな腰を抜かしてしまった。僕は腰を抜かしたまま後ろに下がる。Cも腹ばいになりながら後方に戻っていこうとする。なんと説明すればよいのか。池から聞こえたはずなのだが、耳元で叫んでいたはずだ。僕らは完全にパニックだった。しかし、Aがいきなり立ち上がると笑いながら池に小便をし始めた。

「うるせぇ!これでもくらえ!」

Aの阿保さ加減というか、勇気というかしかし僕らは急に安心さを取り戻すことが出来た。

「お前相変わらずすごいな。」

Cも少し笑えた。

「でもさすがに怖いから右の道に行って帰ろうぜ。」

Bの意見にみんな賛同して、右の道に戻った。しかし、ここでまた恐ろしいことが起きた。

右の道の小さな鳥居の下に女が立っていた。髪が長くて真っ白な服を着ている。そしてこの道を通るにはあの女の横を通らなくてはならない。

「もう、無理だ・・・。」

Cが完全に動けなくなってしまった。僕もその理由が分かった。その女は僕らの通りたい道の方を見ている。

「いやだぁぁ!!」

情けない声を出しながら、僕は全力でその女の横を駆け抜けた。そして見てしまった。口が耳まで裂けるほど笑い、しかしその目は笑っていない。何よりも眼球が真っ黒だったのだ。

 僕らはなんとかAの家に逃げることが出来た。部屋の明かりで恐怖は少し和らいだ。やばかったなや、何が見えたかとみんなで話していた。そして、あの女の顔の話になると、

「マジかよ・・・。」

とB・Cはまた恐怖がよみがえっていたが、Aだけは真っ青な顔で泣き出してしまった。僕たち3人はパニックになってしまった。何とかAを落ち着かせて明るくなりみんな解散した。

 次の日から、Aは変わってしまった。徐々に瘦せていき学校を休みがちになった。僕たちの中であの日の話は話題に上がらなくなっていった。

 それから卒業して、僕とBは大学の為に上京した。生活に慣れていったところで連絡がきた。Aが死んでしまった。

 僕は地元に帰り葬儀に参列した。喫煙所でBに会うと

「やっぱりあの日が関係しているのかな?」

とBは言った。

「やめろよ。あの日のことを言うのは。」

僕は思い出したくないことを思い出してしまった。

 帰りにAの母親に会うと、不気味な事を聞いた。

「あの子ね。死んじゃう前に、夜になるといつもごめんなさいって呟いていたのよ。何か知ってるかしら?」

僕たちは何もわからないと答えてその場を離れた。

 Bともう一つ不思議な事を思い出した。Cが見当たらないのだ。仲の良い友達が亡くなって、葬式に来ないのはおかしいのでCの家に行ってみることにした。

「C、なんで来なかったんだよ。」

Cは青い顔で話し始めた。

「実はAが亡くなる前に電話が来たんだ。」

どうやらAは夜寝るといつも同じ夢を見ていたそうだ。あの日に行ったあの場所で、あの女に追いかけられる夢を見ていた。

「そしてアイツ最後にこう言ったんだ。」

「あの日あの女は笑ってたって言ってたろ?俺が見たあの女はな、怒ってたんだよ。そして、おれが通り過ぎる時に叫んできたんだ。」

僕はその内容を聞いて、二度とふざけて肝試しはしないと誓った。

 

「横を通る時に叫んできたんだよ。」

「お前はダメぇぇぇぇぇぇ。」

 

いかがでしたか?あそこに眠っている何かを彼らは目覚めさせてしまったのでしょうか?A君だけはダメとは何がダメだったのでしょうか。今となっては知る由もありません。

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