2度目の就職の話 【薬局編 ⑤】
桐島さんは慣れない科長の役割に加え、仕事面でも常識面でも注意が必要で危なっかしい私との毎日に常にピリピリしているように感じました。
昼食時は薬局を閉めて、ふたり同時に行けばいいと思うのですが、劇薬と言われる特に注意が必要な薬も複数置いていたためか、ひとりずつ行く決まりがありました。
外来の処方薬も、病棟へ上げる様々な薬も、集める人と確認する人(※一方は薬剤師でないといけない)、必ず双方いる必要があるため、桐島さんが席を外している間は確認待ちの薬が溜まっていく一方で、患者様から急かす声が上がってきていましたが仕方がありません。
とは言っても桐島さんも落ち着いて食事休憩をとらず、薬局の様子を気にして早くに戻ってきていました。
ある日私は受付の岩橋さんに誘われ、ふたりで院内食堂へ行きました。
また質問攻めにされるのかと思ったのですが、彼女はほとんど会話なく私の数歩前を歩いていました。
そして、テーブル席につくなり、
「同い年よね。」と訊ねてきたのです。
「そう、私も20歳。でも岩橋さんは大人っぽいから25歳くらいに見えるわ。」
よりによってまた最初に就職した印刷所と同じ間違いを犯してしまうのです。
しかも、同じ歳なら先輩に対してでも親しみを出したほうがよいかと、タメ口だったのです。
「そ、そう?」言葉少なく答える彼女。
その後彼女は黙ったまま、ちらちらと食事する私の様子を窺っていました。
そんな最中箸がうまく持てない私は、竜田揚げを掴もうとしたときにコロンとテーブルに落としました。
そして、その竜田揚げをお皿に戻し、再び掴もうとしてコロン。
最終的にはテーブルに落ちた竜田揚げに直接箸を刺し、いただきました。
テーブルはその都度拭かれていてきれいですし、大きなおかずを処分したらもったいないし、何も気にすることはないと思ったのです。
昼の休憩を終え薬局に戻ると、岩橋さんと上村さんが「先輩後輩分からないのかな?」「25歳なんて失礼だわ。」「拾い喰いなんて食い意地張ってるわね。」とまた聞こえるような声で私の噂話をしていたのでした。