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老朽原発を60年以上も稼働させるというのは冒険的危険そのもの,もしも過酷事故を再発させたら,いったいどこの誰が責任を取るのか,明確に規定していない原子力村に特有である「きわめつけの無責任」

 ※-1 耐用年数の常識的な理解-だが原発のその問題になると不思議な主張が出まわる-


 a) 耐用年数とはなにか?

  耐用年数とは,固定資産を通常の用途用法に沿って使用した場合に,本来期待する役割を果たすとみなされる期間のことである。

 通常,取得した固定資産は時間の経過とともに,その価値が失われ,最後には価値を喪失します。このように,時間の経過によって価値が減少する固定資産のことを減価償却資産という。

 耐用年数は減価償却資産の使用可能な期間を指すが,この期間は減価償却資産の種類や用途などで細かく設定されている。

 耐用年数は減価償却費を計算するさい必要な情報となる。

 耐用年数に関する詳細は「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」により定められており,また,主な減価償却資産の種類と各耐用年数一覧は,国税庁のウェブサイトからも確認できる。

 b) 耐久年数との違い

 耐用年数と似ている言葉に耐久年数がある。両者の性質はまったく異なり,耐久年数は商品の製造元などが調査・実験結果をもとに,機能面で問題なく使用できると公示された期間のことを指す。

この期間は,法律で定められているものではなく,また,使用状況・環境によっては,実際に使える期間が耐久年数と異なることもある。

一方,耐用年数は資産が使用可能と考えられる期間を示し,決算書類での経費計上で役立つものである。そのため耐用年数を過ぎても,機能が生きていれば使いつづけることは可能である。

 以上,税法や会計学の教科書的に標準の説明である。ここでこの種の説明を紹介するのは,『原発会計』とでも名づけたらよい問題領域がありえ,そして必らずこれに関連して生じる論点に目を向けるためには,前もってここであらためて考えてみたい論点がある,という事情が控えていたからである。


 ※-2「運転60年超の原発,世界で実例なし 設計時の耐用年数は40年 配管破れ,腐食で穴...トラブル続発」『東京新聞』2022年12月9日 朝刊,https://www.tokyo-np.co.jp/article/218838


 〔2022年12月〕8日の経済産業省の有識者会議で議論を終えた原発活用の行動指針案は,運転期間の制限は維持したうえで,「最長60年」との現行規定を超える運転を可能にし,将来的な上限撤廃も視野に入れる。

 しかし,原発が60年を超えて運転した実例は,世界中にひとつもない。国内では設備劣化によるトラブルが相次ぎ,原子力規制委員会も「未到の領域」の規制に手間取っている。

 国際原子力機関(IAEA)によると,すでに廃炉になった原発を含め,世界最長の運転期間はインドのタラプール原発1,2号機の53年1カ月間。同原発から約1カ月遅れで運転を始めた米国のナインマイルポイント1号機とスイスのベツナウ1号機が続く。4基とも現役だ。

「老朽」という言葉はごく常識的に配慮したほうがよい
50年前に新車として発売された自動車にふだん使い用に乗る人はいまい

新幹線の車両だと鉄道車両の「寿命」は
新幹線では15~20年ほど

在来線では短いもので約30年
長寿車でも約50年

 米国も日本と同じく運転期間を40年と規定するが,規制当局の審査をクリアすれば20年間の延長が可能で,延長回数に制限はない。80年運転を認められた原発も6基ある。英国とフランスは運転期間に上限はなく,10年ごとの審査が義務付けられている。

 ただ,多くの原発は設計時,耐用年数を40年間と想定して造られた。老朽化が進むと維持管理コストも高くなり,事業者が長期運転よりも廃炉を選択するケースが多いとみられる。

 国内では40年に満たない原発でも,劣化によるトラブルが起きている。

 運転年数37年の関西電力高浜3,4号機(福井県)は2018年以降,原子炉につながる蒸気発生器内に長年の運転で鉄さびの薄片がたまり,配管に当たって傷つけるトラブルが相次ぐ。定期点検で6回も確認され,蒸気発生器を洗浄しても再発した。

工場管理にかぎらず通常の設備管理問題といえば

20年から30年を超えた建物・施設・機器に
劣化や故障を来たした事故がしばしば発生するのは当たりまえ

とりわけ原発はその原因に事欠かず
しかも放射性物質という技術的な関係を踏えて考えるとしたら

その事故が発生する可能性は量的かつ質的によりいっそう増大する

 さらに深刻なのは,点検漏れだ。原発の部品数は約1000万点に上るとされ,見落としのリスクはつきまとう。2004年には,運転年数が30年に満たない美浜3号機で,点検リストから漏れて一度も確かめられなかった配管が経年劣化で薄くなって破れ,熱水と蒸気が噴出して5人が死亡,6人が重傷を負った。

 東京電力柏崎刈羽原発(新潟県)では,福島第1原発事故後まもなく停止した7号機タービン建屋の配管が11年間点検されず,腐食で穴が開いたことが今〔2022年〕年10月に判明した。

 井野博満・東京大名誉教授(金属材料学)は「劣化状況を調べる超音波検査は,配管の陰では測定が難しい。長期運転で劣化が進むと,点検漏れした時のリスクが増し,重大な事故につながる」と警鐘を鳴らす。

 運転延長の可否を安全性の側面から審査する規制委は,60年超の原発をどのように規制するのかについて,具体策の検討を始められないでいる。

 大きなハードルとなっているのは,原子炉が実際にどう劣化していくのか,データが不足していることだ。運転延長の審査で先行している米国とは,劣化具合のとらえ方が異なるという。

 山中伸介委員長は記者会見で「(60年超は)未知の領域。日本独自のルールをつくる必要がある」と,検討の難しさを認める。

 補注)この原子炉の劣化の問題は,非常に重大な技術的な課題を予想させていた。にもかかわらず,このように本当に無責任な技術管理体制のまま,原発を60年(実質それ以上)も,今後は稼働させるつもりである。

〔記事に戻る→〕 規制が不透明なまま,60年超を可能にする仕組みだけが先行していく。井野氏は強調する。「日本は地震が多く,人口密度も高い。外国とは状況が違う。原発の運転は設計目安の40年を守るべきだ」 (『東京新聞』引用終わり)

 a) こうした原発関連の記事を読んだ,たとえば機械工学や設備管理を学んだ人たちは,どう感じると思うか? 恐ろしくならないか? 非常な不安にかられる思いにならないか? 

 工学的な技術管理は理学的な思考:志向とは異なり,安全性の問題のためであれば,かなりの「幅:余裕率」をもたせてとなるが,つまり,その種のアバウトな感性を入魂させつつ「安全管理」の問題に対処していく。

 ところだ,どうだろう。原発の利用方法になると,その大事故が発生したさいには悲劇的な展開になるほかない「史実」を,2度も所与とされた記録(大事件)を残していながらも,そのように平然と「原発の壽命を30年から40年へ,さらに60年(以上)へと延長させた」のが,日本国原子力村の基本姿勢である。

 チェルノブイリ原発事故事故(1986年4月26日)と東電福島第1原発事故現場(2011年3月11日)に続く『第3の重大かつ深刻な,つまり過酷な原発事故』が,これから先において『絶対に起こらない』と保証できる原子力核工学者はいるか? 

 そのような判断(「起こらない」)を軽率に口にできる者(専門家)はいないし,そもそもいるわけなどない。いるとしたら,実質ウソをいっているか,あるいはいまだに,安全神話にマヒした脳細胞を原因にして「オオボラを吹いていた」ことになる。

 そもそもの話,原発は最初,30年程度の耐用年数を設定していたようだったが,いつの間にか40年という期間になっていた。それがいまでは60年(以上)ある。しかも,前段で説明した文章によれば,この耐用年数に関した議論は,耐久年数と闇汁的にまぜこんだ中身になっている。

 その60年だとはいっても,その間におけるもろもろの未稼働期間,とくに原発の点検・保守に要した時間は除外しろなどと,トンデモ(ない)発想をぬけぬけと要求し,実現させた。

 考えてみればいい。アナタの家が5年前に買った当時の新車の耐用に関してだが,実際に乗用に使っていた時間だけを,この車の耐用年数として計算しろ,だから,家に駐車していた時間,このすべての総計時間も,それから除外しろなどといったら,この人「???・・・」と思われて当然である。

 ところが,原発はそれに似た原発管理体制を要求し,実際に獲得していた。冗談ではない。ここでは類推的に話をすることになるが,本ブログ筆者においてあった,関連の実例で話をする。

 b) 先日,2024年9月中であったが,東京に出かけたついでに,アキバのパソコン関連の諸店に立ち寄って中古品を探索してみた。そこで,ある店でみつけたのが,2013年8月発売の東芝ノートパソコン,機種はダイナブックと呼ばれる製品系列の1台であった。

 そのノートパソコンは,i7-4600UというCPUを搭載した中古品であったが,しかし,店内で購入した段階では,詳細な仕様は不詳のままともかく,このノートパソコンを思い切って買った。

 自宅に帰ってからこのダイナブックを点検したのち,Windows11を裏技も使いインストールしたする前に,その状態を点検・調査したところ,このノートパソコンを買う判断をしたとき「とてもキレイな概観の状態」であったせいか,稼働時間を調べたところが,なんとまだ 207時間しか経ていなかった。

 ところで,である。パソコンの取扱技術にくわしい人ならば,筆者が説明するまでもないが,それでは,このダイナブックの製品としての壽命は,これから1万時間以上は多分,優に使えるかもしれないから,以後さらに5年以上,いや10年は使えるなどといえるか? というか,そういってもよいか?

 中古として購入したこのノートパソコンであるゆえ,筆者はせいぜい2年から3年も使えれば御の字のつもりである。買った値段はACアダプターが付属品として付いておらず欠いていたので,しかも自宅には適合する予備のそれがあったが,その機種の記憶に自信がなかったので,同じ店のなかで500円のそれをみつけてついでに買っておいた。

 ということで,総額では1万円よりかなり安価でこのノートパソコンを調達した(この価格についてはいろいろ意見もあるとは思うが,ここではひとまず置いておく)。

 なぜ,以上のごとき中古ノートパソコンを買った話をするか説明しておこう。この実質10年以上もの時間が経過したノートパソコンであったが,どうやらいままでの「その間」,おそらく利用・稼働させた機会がたいそう少なかったらしい。

 つまり,筆者が購入して自宅にもちかえってから,このノートパソコンの中身をしらべてみるために電源を入れると,2020年の1月14日で Windows のサポートが切れていた「Windows7」の画面が出てきた。そこで,OSを Windows11 に変更するための作業にとりかかったしだいとあいなった。

 c) 以上のような,もともと原発の問題とは比較のしようもない,ノートパソコン話題になっていたけれども,基本では共通する機械一般の壽命(法令上の耐用年数)と,その実際における使用状況(状態=耐久年数)などの問題がからむ議論・詮索をするための参考になると思い,ここでの話をしている。

 かといって,10年前に発売されたノートパソコンを,しかもこれがいままで207時間しか稼働いなかった機械だからといって,これを理由にこれから予定できる耐用年数を,すでに経過してきた年数そのものは考慮せずに,いまからほぼ新品と同様に認めろというのは,ムリな要求というか無茶が過ぎる。正直いって,あまりな冗談はいうなよ,という答えが返ってきそうである。

 ましてや,原発の場合はすでにいままで耐用年数が経過してきたなかで,稼働させていなかった期間の分は,その耐用年数(年月の単位で)は除外しておけ,外しておくことにせよ,といったごとき「非常識きわまりない理屈」は,まさしく工学的原理の全面否定になる。

 そこには,耐用年数と耐久年数のあえて意図的な混同というか,あるいはそれ以前に,その混同すら認めたくない反工学的,すなわち非科学的な「完全なる合理精神の欠落」が,正々堂々と要求されていた。しかもたいそうまずいことに,その要求が本当に実現させられてきた。

 そうだったとなれば,これはいってみれば,自然科学的な立場に対して謀反を起こした事実を意味するだけでなく,工学領域での基本的な操作論に対しての騒擾事態を意味する。

 d) 工場管理の議論に話を戻すと,製造業で利用される工場内の建物や設備は,ふだんからテイネイに維持・運営していれば,会計基準にもとづく耐用年数は,実際に使用される年数よりだいぶ短く,したがって会計実践上,必要な減価償却費の計上が終わったあととなれば,その分は原価・費用の負担がなくなり,利益の向上にその分,大いに資しうることになる。

 工場管理・設備管理として日常的に維持・運営していくにあたり,それらが年月を経るにしたがい,減価償却費の計上が終えたあとでも,いろいろとコストをかけねばならない始末になるものの,同費の計上がなくなったあとだとなれば,ともかく一般論としては,利益に貢献しうる企業経営管理体制の一環が,それでもってうまい具合に源泉として確保できる。

 さて,原発は,その理化学的にかつ技術経済的に宿命づけられている特殊性(異様さ)ゆえに,大事故を起こしたとなるや「放射性物質の拡散」を,必らず起こす。

 つまり,核燃料を焚いて電力を生産する設備(装置・機械)であったから,通常ならばどの製造業でも問題になる「安全管理の問題に共通した要因」などでさえ,一気に吹っ飛ばしたかたちで,その相対的になのだが,絶対的な違いを発する関係となって,その特殊性として最大の特性を発現させる顛末を生む。

 つまり「大事故発生時に結果される」,それも事後においては,ろくに予想すらできない「深刻かつ重大な,つまり極度なまでに過酷な悪影響」を,放射性物質の急速な拡散によって,地域社会(地球環境)そのものに多大な損害をもたらすほかなくなる。要は「原発公害」を発生させることになる。この出来事の意味は非常に重大である。

 e) 昔,1984年12月2日,インドでこういう化学工場の爆発事故が起きていた。

 インドのボパール(India Bhopal)にあった化学工場が,タンクに貯蔵していた毒性のイソシアン酸メチルが漏出させ,世界史上最悪の化学災害をもたらした。具体的にこの事件を説明すると,こういう経過になっていた。
 
 その化学会社の貯蔵タンクから,夜中,農薬の中間原料である猛毒のイソシアン酸メチル(MIC)が漏洩し,おりからの北西風に乗って,市内に拡散し,地上を覆った。深夜で予告もない毒性のMICガスの拡散になんらの対応を取れず,多くの市民が避難もできず,被害を受けた。

 つぎに,最初の段階において生じたその被害状況を紹介しておく。

  死者数   3, 828人
  負傷者数 350, 000人

  被害金額  損害賠償額4億7000万ドル(約610億円)(1989年2月当時,インド最高裁判決)

  社会への影響  流出ガスが南東市街地に約40平方km拡散,動植物も被害。多くの被災者が後遺症に苦しんだ。

 註記)「〈失敗事例〉インド,ボパールの化学工場でタンクに貯蔵していた毒性のイソシアン酸メチルが漏出し,世界史上最悪の化学災害となった。」『失敗知識データベース』https://www.shippai.org/fkd/cf/CC0300003.html

インド・ボパールの化学工場事故

 この猛毒の化学物資拡散により被害を受けた地域住民たちと,東電福島第1原発事故発生以後において当該地域で,放射性物質の拡散により被害を受けた住民たちは,それも後者に関しては,大津波による死者発生という事態も含めての話だとなるゆえ,そう単純に比較・考量はできない。

 とはいえ,インドの化学工場の場合は,東電原発事故とは基本から質的・量的に,つまりは決定的に異質の「原発災害」であった事実は,誰にも否定できない。

 f) 日本ではたとえば足尾銅山鉱毒事件があり,のちには渡良瀬遊水地にその害毒を,いわばネコババ式に流しこみ埋め立てる始末でもって,公害問題そのものをひとまず終焉させえた。

 だが,この鉱毒事件であっても,「3・11」の東電原発事故に比較するには,あまりにもその自然科学的・人文科学的・社会科学的なすべてに関連する諸事象・諸範疇に関してからして,その根源において相違がありすぎた。

 とりわけ,原発の事故はとくにその超大事故の発生ともなれば,チェルノブイリ原発事故事故とその周辺地域の「その後における現状」,東電福島第1原発事故現場とその「周辺地域における現状」,そして,なによりも東電福島第1原発事故現場そのものから「デブリ取り出し作業」すら,事故後13年と8カ月が経った現在などを考慮するに,実質においていえば,本格的にはなんら廃炉工程の作業手順「そのもの」にまではたどり着けていない現実は,悲惨な窮状そのものである。

 東電福島第1原発事故現場から,わずかに取り出せたというデブリ0.7ミリグラムについては,これから成分分析をおこない,事後に予定されるはずの「本格的なその取り出し作業」のための予備研究を,これからおこなうといっているだけであった。

 

 ※-3「トラブルで停止の女川原発2号機,原子炉を再起動 週内にも発電再開」『毎日新聞』2024年11月13日 13:26,更新 21:05

 この東北電力の女川原発2号機再稼働に関するニュースが,こう報道されていた。

 再稼働後に原子炉を停止していた東北電力女川原発2号機(宮城県)について,東北電は〔11月〕13日,原子炉を再起動したと発表した。作業が順調なら,直前で見送っていた発電を週内にも再開し,12月ごろの営業運転をめざす。

 2号機は10月29日,13年半ぶりに原子炉を起動し,再稼働した。しかし,発送電の準備中に炉内にある中性子の計測器を調整する機器が抜けなくなるトラブルが発生。点検のため11月4日に原子炉を停止した。

『毎日新聞』報道

 この女川原発2号機の再稼働は,実は東電福島第1原発事故発生以来のその再稼働「話題」となっていた。その間,つまり13年と7ヶ月もの長期間,稼働していなかったのである。ところが,いまとなって再稼働の時期を迎えることになったという。

 通常では考えられないような長期間,稼働停止(休止)状態にあった原発を再稼働させるためには,その間,どのくらいの維持管理費と,さらに,よりきびしくなっていた安全基準に対応させるための工事対策費は,莫大な予算を必要とさせた。だから,東北電力はなおさら意地でも,女川原発2号機の再稼働を実現させねばならなかった。

 しかし考えてみたい。新幹線の車両を10年以上も動態保存してきたからといって,これを現役車両として新幹線の軌道を走行させる気分になれるか?
もちろん鉄道会社の保線関係者を含め,その走行の運営にたずさわる技術陣が,そのような想定話をもちかけられたら「冗談いうなよ!」ということになる。

 すでに前の記述で紹介してあったが,つぎの『毎日新聞』の記事も再度ここにかかげておこう。この記事の中身として記述されている文章の真意を汲みとることにしたら,老朽原発の再稼働という試行は「クワバラ,くわばら,桑原」ではないか?

「放射線浴び続け設備劣化懸念」
という問題がまともに真剣に検討されているかといったら
否である

原子力規制委員会だといってもしょせんは
原子力村の一村民

 東北電力の女川原発2号機再稼働にさいしては早速,事後にトラブル発生ということで,一時稼働を停止させていた。10年以上も休止していた原発の再稼働であるから,それはそれなりに(装置・機械なりに)まだ眠気が完全には取れていなかったのか,などと混ぜっかえしていいたくもなる。

 さて,つぎの『日本経済新聞』2024年11月15日朝刊「経済・政策」面に掲載されていた解説記事は,原発の再稼働だけでなく「新増設・建て替え不可欠」だと強調したい論調を打ち出していた。この記事じたいは,最後の記述ほうであらためて紹介する。

 その前に『nippon.com』が「女川原発2号機・再稼働」の話題にからませて,つぎのような「原発地図」を借りて解説していた,関連の事情も紹介しておく価値ある。

再稼働だけでなく新増設・建て替えもほしいのが原子力村の狙い


  ◆ 日本の原子力発電所マップ 2024年版                    女川原発13年ぶり再稼働→計器搬入トラブルで原子炉停止 ◆
 =『nippon.com』 2024年11月4日,                        https://www.nippon.com/ja/japan-data/h02183/

 東北電力の女川原発が13年ぶりに再稼働。福島第1原発の事故以来,東日本エリアは初の原発の稼動となった。AI(人工知能)の利用拡大により,省エネでは追いつかないほど電力需要は増加するとみこまれており,2012年6月の原子炉等規制法改正で「原則40年」と定められた運転期間を超えて稼動し続ける高齢原発が増えている。

 東北電力は2024年10月29日,東日本大震災のさいに停止して以来,13年ぶりに女川原発(宮城県石巻市,女川町)2号機の原子炉を起動し,再稼働させた。30日午前0時過ぎに核分裂反応が継続する「臨界」に達した。3日に原子炉内に計器を搬入する作業中にトラブルが発生,4日朝,原子炉を停止した。当初は12月中の営業運転再開をめざしていたが,原因究明を最優先とする。

 東日本大震災の発生前,日本には54基の原発があり,日本で使う電力の30%前後を原子力で賄っていた。事故から13年以上が経過した2024年10月時点で地元の同意をえて再稼働した原発は大飯(関西電力),高浜(関西電力),美浜(関西電力),玄海(九州電力),川内(九州電力),伊方(四国電力),女川の7発電所の13基のみ。

 これまでは,事故を起こした福島第1原発とはタイプが異なる「加圧水型」を導入している西日本エリアに集中しており,福島第1と同じ「沸騰水型」は,女川が初となった。

 原子力発電所マップ(2024年10月末時点)は前段で先にかかげた。

 以下は,東日本大震災以降の原発をめぐる主な動き(時系列をさかのぼる形式「降順」)である。

 2024年12月(予定) 島根原発(中国電力)2号機が再稼働。福島第1原発と同じ「沸騰水型」としては女川に続く2基目となる

 2024年11月3日 再稼働したばかりの女川原発(東北電力)2号機で,原子炉内の状況を調べる「中性子検出器」の補助計器を電動で出し入れが不能となり,4日朝,原子炉を停止

 2024年10月29日 女川原発(東北電力)2号機が再稼働。東日本大震災以降,東日本エリアで原発が再稼働するのは初めて

 2024年10月 原子力規制委員会が,11月に運転開始から50年を迎える高浜原発(関西電力)1号機の今後10年間の保安規定の変更を認可。現行制度で初めて原発の50年超運転を認めた

 2024年8月22日 東京電力が東日本大震で爆発事故を起こした福島第1原発2号機の核燃料(デブリ)の試験的取り出し作業に着手したものの,回収装置の取り付け手順にミスがあり中断。9月に再開したが,回収装置のカメラトラブルで再び中断。10月下旬に再再開した

 2023年9月 運転開始から47年が経過した高浜原発(関西電力)2号機が再稼働

 2023年8月24日 福島第1原発(東京電力)の敷地内にたまる放射性物質トリチウムを含む処理水の海洋放出が始まった

 2023年7月 運転開始から48年が経過した高浜原発1号機が約12年ぶりに再稼働

 2023年7月 国際原子力機関(IAEA)が福島第1原発の処理水の海洋放出を「国際的な安全基準に整合的」であるとする包括報告書を公表

 2023年5月 原発の運転期間を「原則40年,最長60年」と定めた安全規制を大きく転換し,電力の安定供給と脱炭素化を目的に,60年超の長期利用を可能とするGX脱炭素電源法が可決成立

  補注)いつもの指摘をしておく。原発=脱酸素というのは完全に間違いゆえ,こうした理屈は最初から成立不可であって,それこそ支離滅裂な理屈での方途提示でしかありえない。

 2022年6月 島根県の丸山達也知事が,島根原発(中国電力)の再稼働を容認

 2021年6月 運転開始から44年が経過した美浜原発(関西電力)が約10年ぶりに再稼働。福島第1原発事故後,原則40年とされた運転期間を超える原発が再稼働するのは初めて

 2021年4月 福井県の杉本達治知事が運転開始から40年を超える美浜原発3号機と高浜原発1・2号機の再稼働に同意表明

 2021年4月 柏崎刈羽原発(東京電力)のテロ対策に不備があった問題で,原子力規制委員会が,同原発内での核燃料の移動を禁じる是正措置命令を正式決定。再稼働の準備は凍結

  補注)ここでは軍事問題にかかわる事項が登場していた。テロではなく隣国からの攻撃が原発になされる場合の想定は,原発の安全問題に対してきわめてきびしい「話題の提供」となる。

 2021年4月 政府が,福島第1原発の処理水を,希釈した上で,海洋放出する方針を決定

  補注)「融けて流れりゃみな同じ」だから,薄めても薄めなくても,海洋に放出するぶんには「どっちでもいいんじゃない?」ということになるのでは……。

 2021年3月 柏崎刈羽原発で20年3月以降,外部からの侵入を検知する設備が故障し,十分な代替措置が取られていなかったと原子力規制委員会が発表

 2021年1月 柏崎刈羽原発で2020年9月に中央制御室に入室するIDカードが不正使用されていたことが発覚

 2020年11月 宮城県の村井嘉浩知事が女川原発(東北電力)の再稼働に同意。福島第1と同じ沸騰水型としては初

 2018年7月 第5次エネルギー基本計画閣議決定 「2030年度に原発による発電比率を20~22%にする」

 2018年3月,6月 玄海原発(九州電力)3・4号機再稼働

 2018年3月,5月 大飯原発(関西電力)3・4号機再稼働

 2016年8月 伊方原発3号機再稼働

 2016年1,2月 高浜原発3・4号機再稼働

 2015年8,10月 川内原発(九州電力)1・2号機再稼働(新基準施行後最初の再稼働,原発ゼロ1年11カ月ぶり解消)

 2014年4月 第4次エネルギー基本計画閣議決定「原発は重要なベースロード電源」と位置付ける一方で,「再生可能エネルギーの導入などで原発依存度は可能な限り低減」

  補注)この「原発は重要なベースロード電源」と位置付けは,完全なる誤説である。当時でもこのように,再生可能エネルギーを重視する電力需給体制を妨害し,否定するがごとき言説を,大真面目に国家の基本方針として語っていた。

 2013年9 大飯原発3・4号機が定期検査入り,再び原発ゼロ

 2013年7月 自然災害やテロ攻撃に備える原発の新規制基準施行

 2012年9月 原子力規制委員会発足

 2012年7月 大飯原発3・4号機が再稼働(原発ゼロ2カ月ぶり解消)

 2012年6月 原発の運転期間が原則40年までに延長

 2012年5月 泊原発(北海道電力)3号機が運転停止,42年ぶりに国内の原発稼働ゼロ

 2011年3月 東日本大震災,東京電力福島第1原発事故

東日本大震災以降の原発をめぐる主な動き

 最後に『日本経済新聞』2024年11月15日朝刊「経済・政策」面に掲載されていた解説記事を紹介しておく。

 この記事のなかで,「原子炉本体は建て替えられないかぎり安全性の確保が課題になる」という指摘は,原発を60年(以上)も稼働させていきたいという原子力村的な願望に対して,下手をするとこれから大打撃を与えかねない潜在的な「原発事故可能性」として,いつも目の前にチラついている非常に異様なる危険要因を意味する。そうでなければこのような指摘が,わざわざこの記事のなかでなされるわけがない。

「原発50年時代」とは「げに恐ろしい」

 村田光平『原子力と日本病』朝日新聞社,2002年6月はすでに,こう語っていた。

 「日本は」「各地で反対運動が強く,新しい原発をつくるのがむずかしくなったため,かつては30年とか40年などといわれていた原発の壽命を,60年まで延長してよいことにし」た。「そこに,国民への明確な告知や論議はありませんでした」。「いつの間にか買ってに何十年も延ばされてしまったといても過言ではない」(同書,41頁)。

 断わるまでもないが,この村田光平の指摘・批判はいまから22年前の発言であった。それから9年が経った2011年に東電福島第1原発事故を,日本・東電は起こしていた。けれども,いまだに「原発マンセー」というしだいで原発中毒を止められないでいる。

 まるで麻薬常習者。

 再生可能エネルギー体制,このスマートグリッドの電力「発電⇒送電⇒給・配電」方式を,真っ向から最大限に妨害するのが原発。いまだに原発(原子力)をベースロード電源とみなす時代錯誤の電力観がのさばっているようでは,日本の電力事情に明日はない。

 要するに,炭酸ガス・地球温暖化問題に対して「原発が歯止めになる」と主張するごとき,まるで科学の初歩的な理解からして誤解以前の無学習ぶりを表白してやまない人士たちが,原発万歳(原子力村の権益擁護のためのそれ)を執拗につづけている。

 日本におけるエネルギー需給体制は,これからも後進の位置からさらにあとずさりするだけとなるのか。結局は,再生可能エネルギー体制の整備において取り残される結果を,みずから呼びこむことになるほかないのか。

 最後の最後に本日(2024年11月21日)の『毎日新聞』朝刊に掲載されていたアメリカにおける電力事情に関して,原発の問題を「電気料金高騰」の要因からとりあげた解説記事を紹介しておく。

日本の原発はすさまじい手間とコストがかかる
と結論

 かつて原発は「安全・安価・安心」と謳われたものだったが,いまや「高価」で「不安」となれば「安全」などといった論点は,雲散霧消状態……。

 植草一秀の『知られざる真実』2024年11月20日の記述「日本政治刷新の四大テーマ」,http://uekusak.cocolog-nifty.com/blog/2024/11/post-eafb46.html から,つぎの段落を引用しておく。

「原発の廃止」について植草一秀いわく,「フクシマ原発事故は幾重にも奇跡が重なり,最悪の事態が回避された。問題の本質は日本が巨大地震の巣の上に立地していることと日本の原発が巨大地震に耐える構造で建造されていないこと」。『二度とフクシマ事故を再現させない』。これがフクシマ原発事故からうるべき教訓」であると。

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