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企業・事業のM&Aは経営学の基本問題-会社が存続するために必要・不可欠である生き残り方法-(続の1)

【断わり】「本稿(続の1)」は以下の前編を受けている。できればこちらをさきに読んでから,戻ってもらえると好都合である。


 ※-1 この「続の1」として〈冒頭の記述〉は,最近,日本製鉄がUSスティールに買収をしかけた話題から始める

 本編の記述は「続編」となっているが,最初に執筆された時期は2015年であったから,いまから一昔前に考えてみた「企業の合併と買収」(Mergers and Acquisitions)の経営問題であった。

 しかし,この企業経営史においてとなれば,いつの時代においても話題になる出来事,すなわち「企業・事業のM&A」が「経営学の基本問題となる事実」は,会社が存続するために必要・不可欠である生き残り方法であり,しかも非常に重要な経営戦略問題でありつづけている。

 2025年に入ってからもだったが,このM&Aの話題として早速報道されていた「日本製鉄によるUSスティールの買収問題」は,『日本経済新聞』の報道だと,つぎに紹介する記事のように,昨日(2025年1月7日)夕刊で1面冒頭に置かれる記事になっていた。

この記事の左右「真ん中の記事本文」の続き部分は
切り出し(スクラップ)の関係でこのように上下に切り離したが
以下の3段分がまだつながっている

こちらの段落が日鉄が2023年12月に発表した
USスティール買収話の事実に触れている
早稲田大学には入試の最難関学部として政治経済学部がある
政治と経済は密接不可分の問題をもとより形成する

 今回このように,日本企業「日鉄」(日本製鉄)がアメリカ企業のUSスティールを買収する行動を起こしていたわけだが,「経済の論理」(「資本あるいは営利の論理」)に対して,アメリカ政府がそれこそ「政治の理屈」を真っ向からもちだし,それこそ体を張ってというか,国家の体面をかけて阻止しようとしている。

 ところで,日本における企業合併史を回顧してみるとき,日鉄という会社が繰り広げてきた「M&A」の経営史については,『日本経済新聞』がつぎのような図解(表)を,ある記事のなかで提示していた。そのこまかい歴史をいちいち説明していたら,面倒かつ煩瑣でもあるので,ひとまずこの図解を参照してもらうのが便宜と考えてみた。

この図解のなかで注意したいのは
1950年の「解体」という史実である

「敗戦」⇒GHQの命令による財閥の解体

この敗戦後史の様相についてはつぎの記述がわかりやすく
説明してくれている

 ⇒「財閥解体はなぜ行われたのか? わかりやすく解説!」『みんなのマネ活』2022年4月4日,更新 2024年10月9日,https://www.rakuten-card.co.jp/minna-money/topic/article_2204_00006/(リンク先住所は標題にかけてあるので,下線のあるそこから入ってほしい)

 明治時代からの日本近現代史を学ぶと,前段に挙げた日経の図解で最初に登場した官営八幡製鉄所(1901年〔明治34年〕)の話は,必らず聞かされる国策会社の名称となる。

 「朕は国家なり」をひねって「鉄は国家なり」といわれるが,前段の「解説」記事を読めばすぐに理解できるはずの「今回,日鉄によるUSスティール買収話」は,アメリカの企業ではなくて,この政府じたいの立場にとってみれば,

 21世紀のいまはITからすでにAIの時代に全面的に移行しているけれども,世の中から「ものつくり」の基本となる材料のひとつとして「鉄という製品」がなくなるという事態は,絶対にありえない。この事実も踏まえた詮議が必要となる。

 「鉄鋼の生産が国の力の源だ」という認識は,これからもけっして変質することはありえない。明治時代の日本はたとえば蒸気機関車の場合,海外から輸入していた。SLの製造はほとんどが鉄製品からなる材料・部品によって組み立てられる。

電気機関車と比較しても鉄製品の比率が圧倒的に多い

 だが,日本は大正初期になると初めて,本格的な量産型国産機となった「9600形」(貨物用で動輪の直径 1250mm),「8620形」(旅客用でそれは1600mm)の製造に成功した。

 日本はそれ以後,自国で使用する蒸気機関車はすべて,国産で設計段階から製造過程までをまかなえる実力をもつことになった。

 --話を本論に戻す。

 要するに,問題の焦点は「鉄という物質が,国家が基本的に意識すべき物的資源として重大な意味をもっている事実」に向けられる。アメリカではもうすぐ,大統領がバイデンからトランプに替わるにせよ,この鉄の問題にかかわって発生していた「鉄鋼会社の日米間にまたがる合併問題」に関して,両者がまったく同じ姿勢でもって,つまり大反対である意向をそろって明示している。

 次段に『東洋経済 ONLINE』のある記事を紹介するが,これは,2023年12月時点で報道されていた。「日鉄」と「USスティール」が合併すると,世界市場における各国の鉄鋼会社ごとの生産量の順位がどうなるか,その勢力関係が生産量をもとに説明されている。

 この日米間企業の合併話が嫌だというアメリカ側の意向は,その「大国なりの矜持(プライド)」かなにかは,まだよく理解しかねるが, “Business is Business” の伝統を誇る「アメリカ合衆国としての自負心」は,製造業に関するかぎり実に頼りない。大国意識(日本を属国あつかいしているごときその傲慢な態度)が,理屈抜きで「ビジネスの理屈を遮っている」雰囲気を強烈に発散させている。

この記事は「焦点の話題」をめぐり直接的な資料となるが

つぎは「世界の主な国々」での粗鋼生産量に関した統計・図表である

各国の特徴・趨勢がいろいろとめだってそれぞれに明解に出ている

2022年2月24日「プーチンのロシア」が侵略戦争をしかけた

相手国ウクライナはもとソ連邦の一州であったけれども
工業が盛んな地域であった歴史がうかがえる
リーマンショックが発生した2008年の悪影響が2009年には顕著であった
最近5年ほどの粗鋼生産量は飽和状態か?

 以上,この※-1の記述に関してはつぎの記事が参考になる。


 ※-2 会社の寿命は30年か? 世の中に必要な財貨・用役を生産・販売する資本制企業の特性をいくつの産業界について考える

 1)「東芝,再建へ脱パソコン-リストラ本命着手 統合新会社,連結外す意向」『日本経済新聞』2015年12月4日朝刊11面「企業総合」,https://www.nikkei.com/article/DGKKASDZ03HTA_T01C15A2TI1000/

  ▲ まえおき的な説明 ▲

 本(旧)ブログの記述であったが,2015年12月4日において「パソコン3社 事業統合-東芝・富士通・VAIO交渉へ 国内シェア首位浮上-」『日本経済新聞』2015年12月4日朝刊1面「記事」に関する議論をおこなってみたことがある。(現在は未公表の記述であるが)

 さて,企業の「存続と発展(survival and growth)」にとって必要不可欠な「事業の生き残り」方策は,必らずしも「成長そのもの」を意味するわけではなく,事業の縮小や撤退をも覚悟した経営政策を現実的に要求する。

これは製品の寿命を概念的に説明している

ある会社がひとつの製品しか製造・販売していない場合
おおよそいずれはこの曲線に沿った運命をたどるほかなくなる

 製品の寿命段階(ライフサイクル)論では,一般的に「導入期⇒成長期⇒成熟期⇒衰退期」という行程が想定されるが,わけても一番肝心なのは「成熟期から衰退期」に対応する戦略・戦術を,どのように計画・組織・実行・統制という経営管理過程のなかに浸透・通貫させつつ,成功裏に展開・実現させるかという点にある。もちろんのこととして,この方略においては「〈撤退〉という選択肢」も明確に意識されねばならない。

 前段で触れた〔2015年12月4日〕に一度公表してあった記述は,そうした企業経営における事業運営に関する事例のひとつとして,「パソコン3社 事業統合-東芝・富士通・VAIO交渉へ 国内シェア首位浮上-」という記事(日経は当時の1面冒頭記事に配置していた)をとりあげ,吟味してみた。この記事からつぎの図解を参照しておく。

この合併話はいってみれば負け組の事業部門を
敗者復活させるための戦術的工夫だとみなせる

 先週〔ここでは2015年の11月末日から12月初旬〕におけるこの種の企業合併話は実は,パソコン事業だけでなく,石油元売り業界でも出ていた(この問題が本日の主要課題であり,明日以降に公表する予定である「本稿(続その2)」で論及することになる)。

 パソコン事業は,とくに安価な政策を販売の武器とした台湾メーカー(ASUSやエイサー)の台頭や,パソコンとは需要(使途も)面で競合するほかない,それと類似的なモバイル関連情報製品の多種多様な登場によって,ウィンドウズ95の時代を経て,21世紀に入ってから10年も経たないうちに,従来型の「パソコン製造-販売の営業方法」が徐々に適応性を減失させられる時期を迎えていた。

 2)記事本文の引用(2015年当時の,その1)

 当時,国内パソコン市場占有率の問題を報じていた『朝日新聞』2015年12月4日夕刊は,「東芝,富士通,VAIO(バイオ,長野県安曇野市)の3社のパソコン事業統合が実現すれば,会計不祥事に伴う東芝のリストラは一気に加速する」と解説したうえで,さらにとくに東芝の立場について,つぎのように伝えていた。

 東芝は統合後の新会社への出資比率を抑え,連結対象から外したい意向。これと並行して白物家電やテレビでも事業の見直しを進め,経営再建を確実にしたい考えである。

 会計不祥事で東芝は,利益のかさ上げや損失計上の先送りを繰りかえし,不採算事業を放置してきた。2015年9月の新体制発足後は,画像用半導体の生産設備をソニーに売却するほか,中国の家電販売を現地企業に委託するなどのリストラを発表していた。

 パソコン事業はすでに,昨〔2014〕年9月にリストラ策を発表済み。世界の販社を32から13に減らし,個人向けの新興国市場から撤退した。生産部門を除く従業員の2割強に相当する900人前後の削減に踏み切ったが,赤字体質から脱却できない。事業売上高は2014年度に前年度比約1割減の6663億円と縮小傾向。営業損益は白物家電とともに赤字が続いている。

 東芝は1985年にノートパソコンを世界で初めて世に送り出して市場を席巻した。インフラを中心とする東芝では,後発で傍流といえる事業だったが,部門出身の西田厚聡氏が社長に就任した2005年以降は,社内での地位が高まった。

 一方で不適切会計の温床にもなった。パソコン事業で購買した部品を売り,途中で仮の利益を計上する,いわゆる「バイセル取引」だ。2009年3月期から2014年4~12月期のパソコン事業の利益水増し額は578億円にも及んだ。

 不祥事からの経営再生を進める室町正志社長は半導体の一部のほか,テレビや白物家電と並んでパソコンもリストラを優先させる課題事業と位置付ける。赤字の止血というだけでなく,不適切会計という過去と決別する意味でもリストラの「本命」となる。

 パソコンのリストラでは台湾メーカーとの連携も検討しているが,抜本的な収益改善が難しいことから国内企業との統合を優先する。

 東芝,富士通,VAIOの3社が事業統合の交渉に入る前提として,東芝はパソコンの赤字体質脱却にメドを付ける必要がある。東京都青梅市に開発拠点,中国に生産工場を構えるほか,海外の販社も残る。拠点集約などさらなる事業の見直しが不可欠となりそうである。

 3)記事本文の引用(2015年当時の,その2)-事業合併の経済事情-

 3社がパソコン事業の統合に向けて交渉に入る背景には,パソコン市場の縮小がある。スマートフォン(スマホ)などの新たな情報機器の台頭にくわえ,足元では基本ソフト(OS)「ウィンドウズXP」のサポート終了に伴う特需の反動減にも直面している。3社は収益力を高めることで生き残りを模索する。

 国内パソコン市場では,2014年4月にウィンドウズXPがサポート終了を迎えるのに伴う買い替え需要が発生。調査会社のIDCジャパンの調べでは,2013年と2014年の国内パソコン出荷台数は,いずれも1500万台を超える高水準となった。ただ,需要を先食いした反動は大きく,2015年は出荷台数が大幅に減少して1000万台を下回るとの見方も出ている。

 海外市場も縮小している。最盛期の2011年には世界で3億6380万台が出荷されたが,徐々に減少。2015年以降は3億台弱の規模で安定するとみこまれている。

 市場環境の悪化を受け,ソニーはパソコン事業を日本産業パートナーズ(JIP,東京・千代田)に売却し,VAIO(長野県安曇野市)として2014年7月に独立させた。富士通は2015年10月にパソコン事業の分社化を決めた。東芝も会計不祥事の発覚でパソコン事業の業績が悪化していたことが明らかになった。

 とはいえ,パソコンの需要がなくなるわけではない。文書の作成や情報の閲覧など,ノート型やタブレット型のパソコンに対する企業や家庭での需要は続く。底堅い需要をみこみ,収益性の向上を狙って日本のメーカー3社が事業を統合する案が浮上した。

 補注)ここでは「パソコン(そのもの)に対する企業や家庭での需要は続く」という字句に注意してみる。パソコンの有する商品としての性格も,一般の家電製品並みの性格にほうに近づき,落ちつきはじめた。そういう製品に変化してきたと,理解したらよい。

 つまり,パソコンという製品に対する需要はすでにさまがわりし,世の中に普及の浸透した生活必需物資的な品物になっていた。だから,この変化した傾向に合致した経営政策的な対応姿勢が,製造・販売の方針・実行に対しても要求されていた。

 さらにいえば,パソコンという製品の機能に関して,なにか画期的な革新が惹起させられうるかといえば,この可能性はあまりない段階にまで到達した。2015年7月29日,ウィンドウズ10を発売したマイクロソフト社は,ウィンドウズのアップデートの方法を,いままでとは基本から異なる概念で実施した。

 結局,一般の電化製品並みの製品系列に,パソコンも「そのひとつとしてくわわった状態である」という具合に理解しておくのがよいかもしれない。

 2025年1月時点での補注

 以上の話題に関連した話となる。マイクロソフト社による「ウィンドウズズ7ないしウィンドウズ8からウィンドウズ10へのOS更新手順は,基本無償であった」。

 だが,それから10年が経った現在,2025年10月で最終的にサポート期限を迎えるウィンドウズ10のあつかいについてなのだが,さらに,ウィンドウズ11が2021年10月5日に発表してからというもの,マイクロソフト社の対応姿勢には落ち着きがなかった。

 そのウィンドウズ10を11のOSを更新させうるパソコン側の「仕様(基本スペック)」条件に関しては,これを満たさないパソコンであっても,裏技の行使によって,いくらでも11に更新する方法(抜け道?)があったりしていた。
 ところが,そのうちこの方法を黙認するとかしないとかはっきり言明しきれなかったマイクロソフト社の言動とはまた別に,中古パソコン市場ではすでにだいぶ以前から,ウィンドウズ11をインストールする條件を満たさないパソコンが,堂々とで出まわっていた。

 そうだとなれば,以上のように言及してみた事態を収拾・整理する意向はマイクロソフト社側にはもうないのではないかとまで,いいたくもなる。

2025年1月時点での補注

〔ここで前段の記事本文に戻る→〕 世界の出荷台数をみると,中国レノボ・グループ,米HP,米デルの3強がシェアの過半を占める。3強の規模には届かないが,東芝,富士通,VAIOが集結すれば,現在よりも調達での交渉力を高められる。

 国内での各社のブランドは強く,富士通は2位,東芝は3位のシェアをもつ。統合が実現すると,国内市場を基盤とし,海外市場で世界のメーカーと競うことになりそうだ。

 4)以上の記事は,つぎのような意味をもっていた。

 最近では,敗者の立場あるいは弱者の地位を占めつつあった,日本の電気・電子産業会社におけるパソコン事業部門のそれぞれを,いま(当時だったが)あらためて全体的に整理・統合し,集約化する方策を講じる最中なのである。

 この方法によって再度,社会経済的には基本の需要が堅実に持続しているけれども,ただ,供給側との不均衡によって,市場(商圏)における各社のパソコン事業部門が全体としては過剰になっている。

 とりわけ,2008年以降は,安売りを武器とする台湾メーカーが日本のパソコン市場に参入してきた事情が無視できない。このパソコン市場の状況に対して,より積極的に対抗できるパソコン事業会社が組織されることになった。


 ※-3 プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)という経営戦略論の初歩的な概念-思考上の道具としての有用性-

 このプロダクト・ポートフォリオ・マネジメントは,事業経営をめぐる諸問題を要因分析的に思考したうえで,戦略・戦術を新たに構築するための助けとなる経営手法のひとつである。

 一般的にいえば大企業であれば,数多くの事業や製品を保有している。そして,それら事業・製品をどのように組みあわせ,運営・管理すればいいのか,日常的に悩まされている問題である。

 収益(利益)を上げている事業だけに集中するのは,たしかにひとつの戦略といえる。しかしそれだけでは,将来性のある新規事業への投資が,収益(利益)が上がっていないという理由で切り捨てられる可能性もある。

 PPMは,そうした製品や事業間のバランス,その「いい組みあわせ(ポートフォリオ)」を決定するための経営分析・管理手法である。「PPMの管理技法」を図解にした図表の実例を挙げておく。各名称などは本文中の表記と多少異なっている箇所があっても,委細かまわない。

パソコン市場においていかに生き伸びるか?

 このPPMは,1970年代の初め,ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)が提唱した管理手法であった。まず,縦軸に「市場の成長率」,横軸に「自社の市場占有率」を置き,4つの象限を作成する。この各象限は,以下のように名づけられている。〔 〕のなかの文字は「採るべき戦略・戦術」(基本的なあつかい方法)となる。

  problem child = 問題児〔拡大〕    star = 花 形〔維持〕
  cash cow = 金のなる木〔縮小〕    dog = 負け犬〔問題児〕

 企業は,製造・販売している「各製品・事業」を,それぞれその象限に分類するかを決めておき,その位置によって必要となる「拡大・維持・縮小・撤退」などの経営判断を下す。

 「問題児」 ……成長のためには大きな投資が要求される製品群である。成長率は高いので,もしも,占有率を拡大できれば「花形製品」へ脱皮していく可能性を秘めている。だが,新製品の開発にかける研究投資額が増大するに応じて,それ相応にむずかしい経営判断が要求される。

 一方,たとえばインターネットビジネスの分野では,比較的少ない投資金額で新しい事業を開始できる。この問題児の象限においては,できるだけたくさんの商品群を抱えているのであれば,将来の不確実性に対応する態勢が求められる。

 「花形製品」 ……自社の占有率が高く成長率が高く,多くの収入が期待できる分野である。ただし,市場の成長に追いついていくには,それなりの投資も追加的におこなわねばならず,利益という点ではあまり貢献しない。成熟した市場になったときの利益を確保するためにも,占有率を拡大・維持しておき,金のなる木へと順次育てていく必要がある。

 「金のなる木」 ……成長率が低下していくにつれ,投資はそれほど必要はなくなる。それゆえ,大きな利益がみこめる。ただし,市場は一般的に徐々に衰退していくので,利益を上げているうちに,「花形製品」や「問題児」のほうに投資をおこなっておく必要もある。
 
 「負け犬」 ……市場における占有率も低下したうえ,さらに市場の成長性も低い分野である。いずれにせよ,完全にこの「負け犬」まで製品が落ちこむ以前に,市場から撤退させる手当を講じておく必要がある。仮にそうにでもなったときは,早急な撤退が必要される。

 以上,PPMの管理手法(概念:考え方)は,1960年代以降のアメリカにおいて,とくにコングロマリット企業の事業再編にさいして活用された。GEとマッキンゼーはこれを,さらに9つの象限へと分けたビジネス・スクリーン(GE Nine Cell Planning Grid / GE's Business Screen)という手法も開発している。

 補注)この「GE&マッキンゼー」が提供した戦略概念枠組「9つの象限へと分けたビジネス・スクリーン」については,つぎの画像資料にした説明内容を参照されたい。

「9象限に分けたビジネス・スクリーン」の説明

 話は,PPMの管理手法に戻す。この手法は,簡便で非常に判りやすく,それなりに便利であった。しかし同時に,利用上の注意点がいくつかあった。

 a) 資金収支だけを考慮しがちである。実際の経営ではさらに,ヒト・モノ・情報といった経営の諸資源も関連しており,無視できない。このことは当然である。

 先例のインターネット・ビジネスにおいては,資金の流れよりもむしろ,その分野を得意とする優秀な人材が肝心である場合が多い。資金面では流動性も高く,「金のなる木」から「問題児」へと流れていたとしてても,人材の場合ではそう単純に事態が動くとは限らない。

 b) また,複数の製品のあいだに生じる相乗効果も,ポートフォリオにあっては表現しづらい。仮に「負け犬」に分類される製品であっても,ヒト・モノ・情報という点で,他製品に好い効果をもたらしている事例もありうる。いちがいに,そうした性格を有する製品を廃棄するわけにいかない。

 c) 以上のような理由から,このPPMの管理手法だけに頼って経営判断をおこなうのではなく,あくまで,現状把握のためのひとつの道具として活用すればよいものである。

 d) 要するに,このPPMの管理手法は,簡素な手順で視覚的に現状を把握できる。それゆえ,議論の前提を多くの人によって共有しなければならない場合・状況であれば,それなりに効果を期待できる。

 註記)ここで a) b) c) d) は,「6. プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)」『INOVETICA』http://www.innovetica.com/resource_06.html を参照したが,引用者なりに任意に補・加筆している。

 さて,日本におけるパソコン事業に携わっていた諸会社のうち,すでに撤退した会社がいくつもあった。つぎの引用中にその会社名が登場する。日本の会社としてさらに,サンヨーの名が出ていない。ここに足しておく。

 国内メーカーはかつて,パソコン市場で高い開発力を駆使し,世界市場でしのぎを削っていた。だが,最近ではスマートフォン(高機能携帯電話)やタブレット端末の普及により,世界的にパソコン販売は低迷している。

 2007年に日立製作所が個人向けの生産を中止し,2010年にはシャープもパソコン事業の撤退を表明した。2011年にはNECが中国・レノボとの提携でパソコン事業の合弁会社を設立した。いまや “日の丸パソコン” を担うのは,世界シェア7位の東芝と同10位の富士通のみとなった。

 註記)http://www.sankeibiz.jp/business/news/140211/bsb1402110701001-n1.htm (このリンク先住所は現在削除)

 2025年1月8日:補注)前述の sankeibiz の記事・内容は古くなっていたので,ここで以下の補足をしておく。

 日立は撤退,ソニーは投資会社に売却し,分離。
 NECは Lenovo 合弁会社を設立し,分離。
 富士通はNECと Lenovo に乗っかる形で分離。

 東芝は分離。分離した dynabook は鴻海に買収され SHARP に統合。 残っているのはエプソンとパナソニックのみ。ホントこのぐらい。

 マウスコンピューターはパソコンの設計,開発などをするような一般的なメーカーではありません。 BTOメーカーという,OEM製品の製造と販売をする会社です。

 注記)『YAHOO!JAPAN 知恵袋』2023年11月15日,https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q11288977581 参照。

なお注記のリンク先住所は現在は削除

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【付 記】 「本稿(続の1)」のさらに続編(続の2)は,つぎのリンク先住所である。

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