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たみやえるの140字小説 2024.1月〜6月までのまとめ

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記事一覧

140字小説続けてみる(2024.06.01〜06.30)

140字小説続けてみる(2024.06.01〜06.30)

『レターセット』

 文具店パートの私は苛ついていた。視線の先の高校生カップルが原因。彼女がレターセットを一生懸命選ぶのに彼は返事すらしない。

 二人が店の外に出る。
 彼女は彼にレターセットの袋を渡し、歩道脇の車に乗り込む。車はあっという間に見えなくなる。引っ越し会社のトラックだった。

 彼はまだそこにいる。

『うちの夫』

 職場に、飼い猫飼い犬を連れての出勤がオッケイになった。そのこと

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140字小説続けてみる(2024.05.01〜05.31)

140字小説続けてみる(2024.05.01〜05.31)

 『私はまだ旦那様に会ったことがない』

 とある資産家のお屋敷につとめることになった。仕事は番犬と屋敷の奥に住む可愛らしいお嬢様のお世話。驚くことにお嬢様は既婚者なのだそう。まだ十代なのに。

 それにしても旦那様に会わない。

 同僚に聞くと、皆「会っているじゃない」と私を笑う。後で知った。

 私の世話する犬が旦那様だと。

 ✳︎

 執事に言われた。

「旦那様の妾になってくれ」
「嫌で

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140字小説にチャレンジする(2024.04.01〜04.30)

140字小説にチャレンジする(2024.04.01〜04.30)

『将来有望』
 うららかな日差しが照らす公園のベンチ。二人の母親が話している。
「うちの子、テストはいつも満点なの」
「羨ましい。うちの子なんて九十点ばかりよ」
『見栄を張り合うのは四月一日だけなんだよな』
『期待されているんだかいないんだか』
 母親に抱かれる赤ん坊たちは目線を交わしている。

『欲しくなるもの』
 二人で歩いている時だった。
「目にすると欲しくなるものってあるよね」
「例えば?

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140字小説にチャレンジする(2024.03.01〜03.31)

140字小説にチャレンジする(2024.03.01〜03.31)

『名前を』
 婚活パーティーの終盤、次々とカップルが成立してゆく。
「思い出すなぁ」
 思わず言うと隣の男性が「何をです?」と聞く。
「はないちもんめの時、なかなか呼ばれなくて」
「今日のパーティーは番号で呼ばれるので名前は呼ばれません」
 むくれた私に彼が囁いた。
「なので、まず名前を教えてくれませんか」

『浮気の理由』
「おかえり。今日はギョーザだよ」
「俺の好物じゃん。サンキュ」
 彼女が

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140字小説にチャレンジする(2024.01.25〜02.29)

140字小説にチャレンジする(2024.01.25〜02.29)

『かじかむ手』
 久しぶりの忘年会。店を出ると湿った雪が降っていた。
「寒いね」「だね」
 手袋はあえて忘れた。
 歩き始めてもうすぐ百歩目。かじかんだ手をグーパーする。
 店の明かりに光る君の横顔は、あの子の背中をまっすぐ見ていた。
 かわいそうな私の手は、君のポケットに入れてもらえそうにない。

『クリームソーダ』
 雨から逃げるように入店した。クリームソーダのストローを咥えた私に「冬なのに寒

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