20番 わびぬれば今はた同じ 元良親王
今橋愛記/『トリビュート百人一首』(幻戯書房/2015年)より
わびぬれば今はた同じ難波なるみをつくしても逢はむとぞ思ふ
元良親王 〔所載歌集『後撰集』恋五(960)〕
京極の御息所とのひめごとが露見してしまった後、せっぱ詰まった状況で、この歌をよんだ。京極の御息所は宇多天皇の女御、彼女は人妻だった。みをつくしても逢はむとぞ思ふ。もう一度あなたに逢えるのなら、どうなったってかまわない。下の句の勇敢なところ。とてもすきだ。
元良親王のことを知るとき。最初に「一夜めぐりの君」というあだ名とともに、彼が色好みで有名だったこと、そのエピソードが出てくる。けれど、父・陽成院(一三番)が天皇を退位させられたことによって、皇位継承の第一候補の地位を失ってしまうという彼の身の上などを知ると。ああ、そうだったのか。と、なんだか気の毒になってくる。「一夜めぐりの君」として、恋事の、いろんな感情をぜんぶ味わいつくすこと。彼は、そうすることで束の間、つらい現実を忘れようとしたのだろうか。
そんなことを考えていると、勇敢な恋の歌が、権威へ命がけの挑戦をする歌へ。がらっと顔を変える。わびぬれば今はた同じ――生まれてきたときからどうしょうもないのやから。今さらどうなったってしょうもないことや。とてもさびしい音になる。
さて、私のほうはというと、みをつくしが澪標(船が浅瀬に乗りあげないよう、目じるしとして立てた標識)と掛かっているところから、ヒントをもらってつくりはじめた。灯台という言葉に夫への思いをこめた。
あれこれに
つかれてかえった大阪で
またあえた
あえたね。
灯台に 今橋 愛
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