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32番 山川に風のかけたる 春道列樹
今橋愛記
山川に風のかけたるしがらみは流れもあへぬ紅葉なりけり 春道列樹 〔所載歌集『古今集』秋下(303)〕
歌意
谷川に風がかけたしがらみとは、実は流れることもできないでいる紅葉なのだったよ。
『古今集』詞書に「志賀の山越えにて詠める」。
志賀の山越えとは京都から山を超えて大津に至る、都人が崇福寺参りなどで利用していた道。
風が吹く。風は木の枝を揺らし、紅葉は散って、ゆらり ゆらりと舞い落ちていく。
下は川であった。
川面に散り敷かれた紅葉たち。
そのまま川の流れに流され、流れのままにただよっていく紅葉たち。
出っぱった石や木の枝、川のはしっこ。
ところどころに とどまっている紅葉もある。
緑や赤や黄や橙や茶色、黄金色。その濃淡として存在している紅葉。
どの紅葉も川にひったりと浸かってうつくしい。
日に日に秋が深まっていく頃の実景ということになるだろうか。
3句目の「しがらみ」は「柵」の字を使う。さく。
風が(しがらみを)こしらえたんだよ。と作者は言う。
風を人みたいにしている。擬人化。
風も川も紅葉も人と変わらないのだという世界観。
ポールギャリコ「雪のひとひら」や「葉っぱのフレディ」(レオ・バスカーリア)、宮沢賢治の童話が浮かんだりする。
川面を行く紅葉たちの行方、そのたゆたいを思い浮かべていたら、
髪を梳かす指というイメージが立ちのぼった。そこから翻案を作った。
髪をなでられたことがなかった
盲点
ぼーっとしている 今橋 愛
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