19番(今橋版) 難波潟みじかき芦の 伊勢
今橋愛記/『トリビュート百人一首』(幻戯書房/2015年)より
難波潟みじかき芦のふしの間も逢はでこの世を過ぐしてよとや 伊勢 〔所載歌集『新古今集』恋一 (1049)〕
作者の伊勢は、藤原時平・仲平兄弟や宇多天皇、その皇子である敦慶親王など、多くの男性から好意を寄せられた。中でも、敦慶親王から求愛を受けたのは彼二十六才、伊勢三十六才の時。当時、四十才は初老の年だったと言うので、若さを失っても、なお魅力的な方だったのだろうと想像する。
あわでこのよをすぐしてよとや。すとんすとん。とすべての音が。すべておさまるところにおさまりながら。くねるような。この感じは何なん。けっこうきついこと言っているのに。品があって。あわでこのよをすぐしてよとや。ひびきの中の女らしさ。いじらしさと。言い切る強さ。すごい女の人。あわでこのよをすぐしてよとや。聡明さ。こんな完ぺきな音で、相手の心に爪を立てられたら。どんなにかむくわれることやろう。と思うとき思いだすものを思いだせるときには。あわでこのよをすぐしてよとや。こんなきついことを言うのは。すきやから。すきやから、わかってほしかったんです。あわでこのよをすぐしてよとや。そうか。これはうつくしい呪文なんやね。
だったらわたしも同じくらいうつくしいもので歌をつくろう。滋賀・醒ヶ井の梅花藻。それは見てみたいとずっと思っている、白い小さな水中花。
こころにさわったひとよ。は、「人よ」と、愛する人への呼びかけでもあるけれど。人をすきになるのは一瞬が永遠になってしまうことやから「一夜」、「一世」も掛けた。こころからすきだったこと。伝わりますように。
醒ヶ井の梅花藻の白い花ほども
ふれず
こころに
さわったひとよ 今橋 愛
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?