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14番 陸奥のしのぶもぢずり 河原左大臣
今橋愛記/2018年頃
陸奥のしのぶもぢずり誰ゆゑに乱れそめにしわれならなくに 河原左大臣所載歌集『古今集』恋四(724)
歌意
陸奥のしのぶもじずりの乱れ模様のように、ほかの誰のせいで乱れはじめてしまったのか、私のせいではないのに‥‥‥。ほかならぬあなたのせいなのですよ。
( 2018年頃書く )
友だちが少しまえにハンカチをくれた。
ブルー地に白い鹿の刺しゅうがしてある。斑点(はんてん)はきんいろ。
中川政七(なかがわまさひち)商店というところのもので、別の友だちは政七。と呼びすてで呼んでいた。
そのような取り扱われようもかわいい政七。また別の友だちが政七のタオルをくれた。
その辺りか、わたしもまた別の友だちのお祝いに政七(ネット)で砂糖とか塩を入れる壺を見ていた。
自分ではぴゃっぴゃ買わない。少しおごそかな感じもある。
じっくり長いこと使ってもらえそうな気もする政七。
花山さんが、5番のところで 「秋の鹿の雄が雌を呼ぶ鳴き声が嬬恋の心に結びつくというのは、古典和歌の常套中の常套であって、何一つ、目新しいものがない。」と書いていたけど、古典和歌の常套中の常套を知らないわたしには、
奥山に紅葉踏み分け鳴く鹿の声聞くときぞ秋は悲しき
この歌の鹿も、政七の鹿みたいに新鮮でかわいいのだった。
陸奥の しのぶもぢずり 誰ゆゑに 乱れそめにし われならなくに
翻案の「しのぶもぢずり」をどうしようかと ここしばらく ぼちぼちずっと考えていた。
しのぶもぢずり。この歌でしか知らない。草の葉を布にこすりつけて染めた布のことだそう。
時忍ぶ。もぢずり。時間空間を超えて音だけが今日まで生き残っているなんてロマンチックだなあ。
そんなある日、図書館で着物の柄の本をぱらぱら見ていて手がとまる。 かのこしぼり。目からこぼれる ためいきのイメージ。何より かのこ。音がかわいい。
鹿(か)の子。また鹿やん。
ためいきと
鹿の子しぼりのようなあわを
きみのせい きみのせい
日がな こぼして。 今橋 愛
(初出 第五十回記念茂吉忌合同歌会作品集より)