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後部座席での「内言」

 先日、友人2人と四国へ旅した。
 毎年恒例の「うどんツアー」である。(拙稿「3匹のおっさん うどん旅」)
 2日間、後部座席で縄文時代の「屈葬」の如く、体を小さくしながら考えたことがある。

「同じことを言われも、腹が立つ人と、そうで無い人がいるのは何でだろう」

 同行の2人は、口がかなり悪い。
 例に挙げることがはばかられる言動ばかりだ。
 いわゆる、「ハラスメント」系と「放送禁止用語」連発の「人間性疑うわ!」レベルの放言大会である。

 しかし、面白い。いや、だから、なのかもしれない。言いたいことが言える楽しさなのか、相手がどう思うかを測りながら喋らなくてもいい気楽さなのか。
 出発は奈良県の北部、阪神高速から第二神名ー明石海峡大橋ー淡路島ー鳴門で四国上陸となる、3時間を超える道のりである。
 その間、ほとんど喋っている。BGMなんていう洒落たものは一切ない。
 話題は、自民党総裁選から兵庫県知事選の選挙というやや高尚な政治ネタから、家族や孫の話、高齢者の就業問題、そして、いわゆる「下ネタ」まで乱高下が激しい。
 ちなみに、私を含めて3人とも元教員である。私以外の2人は中学校教員、私は小学校で3人とも60歳定年(当時)まで勤め上げた。
 長い付き合いである。ほぼ、教員になった新卒の頃から、教職員団体の活動で出会い、それなりの思いを持って任務も背負って頑張ってきた同志である。(カッコつけてるなあ)
 今、改めて計算してみると40年以上の付き合いかあと気付かされる。
 常時、一緒にいたわけではないが、家族ぐるみで夏には海水浴、冬にはスキーと行動を共にすることが多かった。
 教育についての価値観はかなり違う。若い頃はよく議論になった。時には激論を交わすこともあった。
 性格は、誰でも十人十色だと思うので違うのは当たり前だ。あえて、一番顕著な違いを言うとしたら私以外の2人は強烈な「いらち」(関西弁で「せっかち」と言う意味)であることだ。一緒に旅をしているとこの点でよく揉める。

サービスエリアでのトイレ休憩の際、
「何やってんねん! はよせいや」
「何でそんなに急がせるん。おしっこくらいゆっくりさせてくれよ」
とまあ、こんな感じである。後部ドアが閉まるか閉まらなかと言うタイミングで車は発進する。
「危ないやろ。まだ、ドア閉めてないやんか!」
「遅いんじゃあ!」
「そんなに急いでも、そんなに差が出ないってことは科学的に証明されてることNHKでやってたん知らんのか」
「そんなこと知るか。ちりも積もればや!」
 こんなやりとりを何十年繰り返している。言う方も言われる方もこの意味では「気が長い」のかもしれない。

 さて、今回そんな3人の旅で、ふと思ったことがある。

 自分で言うのも気恥ずかしいのだが、私は、温厚で話しやすいタイプであるらしい。
 教員時代に、教え子の母親から「先生とは、『おばちゃんトーク』ができるから楽しい」と評されたことがある。家庭訪問などではお子さんのことよりプライベートな趣味の話などで盛り上がることも多かった。
 退職の際に、「誰とでも打ち解けられる才能を持っている先生」とありがたい言葉もいただいた。
 ここまで、書くと「調子のいい嘘くさい奴」に思われたかもしれない。確かにそういう面があると自認している。ただ、計算ずくでそんな振る舞いとしているのではないことは自分自身が一番知っている。

 そんな、私なのだが、時々「カチン」、いや「カッッッチーン」(小さい「ツ」が3つぐらい)とくることがある。
 ちょっと、この間、そう言う出来事が続く中で、今回の旅になった。

 冒頭でも述べた通り、同行する2人はかなり口が悪い。
 私に対しても、罵詈雑言オンパレードであった。
 しかし、
 腹が立たないのだ。カチンの「カ」もない。
「同じことを別の人に言われたら「ッ」が何個もつくほどカチンとくるだろうなあ」
と思う。

「これは、何の違いなのだろう」
後部座席で自問自答する。
 すぐに浮かぶ答えは、
「そりゃあ、関係性の違いやろ」
「付き合いの長さとか、お互いのこと、どれだけ知っているかとか」
「まあ、一言で言うならどんな人間関係を築いてきたかの違いじゃないの」
これ、すべて私の内言である。
 
でも、別の自分が答える。
「いやあ、それだけじゃないやろ」
「付き合いの短い人で、きつめに言われてもスッと入ってくる場合もあるし、長い人で、よくわかり合っていると思っている人でも腹立つことあるし」
「人生の半分以上一緒にいる嫁さんに『また、コーヒーの粉こぼしてるやん』て言われた時『ムカッ』となるしなあ」
「じゃあ、キャラの問題か」
「腹立つ言い方のオーラを出している人と、そうでない人がいるってこと」
「『この人に言われたらなんか腹立つねん』っていう人おるしなあ」
「じゃあ、言い方? イントネーションとか」
「いわゆる、上から目線ってやつ」
「本人が意識していなくても、知らないうちに居丈高オーラ出している人っているもんなあ」
再度……「」ついてますが、すべて内言です。


 答えが出ないまま、2日間の旅が終わった。
 今回もたいがいの「舌戦」満載の車中だったし、声を荒げる場面もありつつも
楽しい旅だった。

「同じことを言われても腹立つ人とそうでない人の違いは何によるものか」
「持論『おならは、信頼関係のバロメーターである』か『親しき中にも礼儀あり』か」
 
 私の中での命題ビッグ2である。(次の記事へ)

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