読書日記:足利将軍と笙の関わりが面白い『天皇・将軍・地下楽人の室町音楽史』(三島暁子、思文閣出版)
「笙」に着目した室町音楽史。
室町時代関連の本というと政治史や戦乱メインのものしか読んだことがなかったので新鮮!
「第三章 将軍家天神講と奏楽」「第四章 将軍が笙を学ぶということ」を特に興味深く読みました。
以下、印象に残ったところをまとめてみました。
気になる方は本書を。
室町時代に興味ある方であれば読んでおいて損はないと思います。
・尊氏以来、歴代足利将軍で笙を学んだ人が多い(笙は将軍が学ぶべきもの、という認識が形成されていった)。
・尊氏が笙を学んだ理由のひとつは、祖先にならって(清和源氏の祖である源義家・義光兄弟も笙を奏していたと伝えられる)。
・貞和年間に行われた天神講では、以下を演奏
足利尊氏:笙
足利直義:筝
上杉重能:琵琶
・歴代将軍の笙始(笙を習い始める儀式)について記録が残る。
・10代義稙までは、5代義量、7代義勝を除くと笙始の記載あり。
・2代義詮については、彼自身ではなく、弟の基氏が笙を学んでいた。笙を通じて清和源氏の祖、源義家・義光兄弟と、義詮・基氏兄弟が重ね合わされている(源義光には兄を助けたという美談あり。観応の擾乱で敵対した足利尊氏・直義の悲劇を繰り返さないで欲しいという思いからか)。
・11代義澄以降は、笙始について記載なし。
足利義満と笙は比較的有名だけど、それ以降の将軍たちも笙を習得し、権威維持に利用した(10代義稙は、六角征伐前に笙始を行った)ことがうかがえます。
足利将軍中心の抜粋ですが、これ以外にも、豊原家(天皇や将軍への笙の師範を務めた)の嫡流と庶流との確執についてなど、読み応えのある論考が揃ってます。