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自治体での5歳児健診が広がらない理由
新たに任意健診として認められた5歳児健診も、うまく運用されている自治体は数えるほどしかないようです。どこが課題になっているのかを認識しておくことは非常に重要です。
➀ 5歳児健診の意義を保護者と共有しにくい
3歳児健診と就学前健診の間にある5歳児健診は、その健診内容として
【実施方法】原則して集団検診
【健診内容】発達障害などの心身の異常を早期発見(精神発達の状況、言語発達などの遅れなど)、育児上問題となる事項、必要に応じて専門相談等
(5歳児健康診査の実施要項(こども家庭庁)
とされています。そして、医師に求められる5歳児健診の項目としては、以下の8項目が挙げられています。
➀ 身体発育異常(身長/体重)
② 運動機能異常
③ 感覚器・その他の異常(眼、耳)
④ 皮膚の異常
⑤ 理解に関する課題
⑥ 情緒・行動
⑦ こどもの遊び
⑧ 生活習慣
本来の目的としては発達特性のある児の早期発見ですが、実際に行われる健診内容としては、大部分の子にとっては通常の健診とそれほど差別化ができるものでもなく、そうなると ”じゃあ就学前健診でいいんじゃねー”と成りかねません。
健診の高い受診率を保つためには、地域の中でのその意義に対して十分にコンセンサスがあることが必要だと考えますが、こういった保護者のマインドはママ友などを介して伝播していくために、非常に留意しておかなければならないことだと思います。
② 健診を全員対象とすることの敷居の高さ
こども家庭庁の5歳児健診は集団健診を基本としており (下表)、自治体もその意図にそって、健診を計画しているようです。しかし、自治体の人口や健診医師も含めたリソースの関係で困難となっています。
実際のところ5歳児健診になると、受診も同じ保育園や幼稚園の友達と一緒に受診することも多いと思います(就学前健診もそうですし…)。
5歳になると保護者同志が密な人間関係を構築していること多く、その中で発達の心配というデリケートな相談を個別に希望できるのかということも懸念しています。
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③ 各ステークホルダーの調整の難しさ
5歳児健診に関して関わるステークホルダーは多岐に渡っています。実際の生活の中で関わっている保育園や幼稚園の先生、また発達特性のある子を受け入れることになる小学校の先生方、健診の医師、保健師、臨床心理士、組織的に言えば、自治体の福祉課、教育委員会、子育て支援課などです。
これらの人的にも組織的にも別々のステークホルダーたちを横串を指して、すすんでいかなければならないのが5歳児健診の難しさと言えるでしょう。
④ 健診医師の人的確保の困難
現在の3歳児健診までの定期健診でも(4か月、10か月、1歳6か月、3歳)健診への出務が負担になっていることに加えて、今回の5歳児健診の導入です。出務医は出務時間の診療ができないために、身体的負担だけではなく、医業収益の減少という収益な負担も抱えてしまいます。人の自己犠牲の上に成り立っていく健診だと継続上の問題が出てきてもおかしくありません。
⑤ 健診医師の質的確保の問題
身体的な問題などを評価する通常の健診であれば、多くの小児科医や一部の内科の先生にとっても抵抗なく出務できると思います。
しかし、発達障害の評価をお願いしますと言われてしまうと、”専門外”だからとか、”責任が大きい”などと腰が重くなってしまう医師が多いと思われます。ただ健診医に対しては、決して専門的な診断を下すことが求められているわけではないので、そういった心理的障壁を取り除いていくことができるかが課題だと感じます。
⑤ フォロー体制をどのように充実させていくか?
5歳児健診で発達障害が疑われるケースをピックアップしたとしても、その先の診断や支援の体制がなければ、やみくもに保護者の不安を煽ってしまうだけになってしまいます。
発達障害に対して、支援までを一気通貫で行えるようなリソースをもっている自治体は限られています。そのため、こういった自治体の発達支援センターを中心として、周囲の地域の対象者に対しても支援を行うことが求めれていますが、そのセンターのキャパシティーやそこまでわざわざ療育に通う手間などを考えると、フォロー体制も大きな課題となります。
現在は5歳児健診実施することに各自治体は注力されていますが、入口の戦略だけでなく、継続した支援提供が次の問題になることは明らかです。ここに一般小児科医としてどのように関わるかを個人的課題と捉えています。