読書記録「空の声」堂場瞬一

この本はNHKのアナウンサー和田信賢さんという方の実際の話を元に…というか、本人も周りの方も実際のお名前なので、ほぼそのまま書かれています。

まず、この和田信賢さんというかた、戦前から戦後にかけてラジオ(この頃はテレビはま だ)で活躍されていて、終戦の時の進行役や天皇からの詔を朗読した人だそうです。

そんな和田さんがヘルシンキオリンピックの中継のために、何日もかけて飛行機で向かうのですが、もうその時点で超体調が悪くなり…。という、完全ノンフィクションです。

堂場瞬一さんと言えば、刑事ものやハードボイルドが多く、そんな中で、この作品は異色です。今まで読んだ堂場作品と言えば、高城堅吾シリーズとか鳴沢了シリーズのものばかり。スポーツものもたくさん書いてらっしゃるので、オリンピックの中継シーンなどは流石です。しかし…

実は勝手に、思ってたのと違っていました。というのも、最近文庫化されて、内容をちょっとチェックしたら、満身創痍の和田さんが何としてもオリンピックの中継をやり遂げるぞ❗という感じのスポ根に通じるものだと思っていたんですが…まさかの最後に…。

体調の悪さだけは根性でどうにかなるわけもなく。時代とはいえ、行く前にもっとどうにか…着いてからでももっと早く…我慢したからどうにかなるものでもなく。モヤモヤと終わりました。

スタッフの飯田さんという方が、途中ホテルで横になっている和田さんを責める場面があり、みんなが飯田さんを嗜めるのですが、飯田さんの後輩がオリンピックのアナウンサーの候補にあがっていたとのこと。そりゃあ、飯田さんも病人を責めたくなかっただろうけど、憤懣やる方ないとはこのことですよね。

この物語は和田さんの体調の悪さだけが残り、自分も最後までモヤモヤと体調が悪くなりそうでした。

和田さんにびっしりつきそっていた後輩のアナウンサーの方が「自分がオリンピック中継をしている間に和田さんが苦しんでいた。自分は(和田さんの代わりに中継をやって)それがきっかけで名声を得て、一生後悔している」と言って、アナウンサー引退後はフリーにならずに表舞台から姿を消した…とウィキペディアに載ってましたが、あなたは全く悪くないんですよ、といってあげたい。

人望もあっただけに周りで苦しんだ人も(行かせなければよかった、とか)多かったのでしょうね。

とにもかくにも、体調が悪いのに無理することだけは、決して格好いいことではないと胸に留めておきたい…と痛感した小説(?)でした。

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