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祖母は魔法使い 2012/2023
デパートの化粧品売場の近くにいると不思議と落ち着きを感じる。
大抵の男性は自分たちには無縁の世界であるため居心地の悪さを覚え、きらびやかなその領域を敬遠しがちであるが、私は実家を思い出す。
私の実家は祖母が化粧品屋をしている。
化粧品屋といってもデパートのようなショーケースがあるわけではない。
私たち家族が日常生活で使うリビング(といっても畳が敷き詰められたお茶の間)のテーブルに所狭しと様々な化粧品が並べられて、祖母が実演販売するのだ。
そのため物心つく頃には帰宅すると連日、見知らぬ女性が家にあがっていた。
子どもの頃、家に来る前と後で顔の印象がぱっと明るく変わる女性たちを見て「祖母は魔法使いではないか」と思ったことがある。同時にリビングの中に残る化粧品の甘い香りに何とも言えないやすらぎを感じた。
化粧品を販売するだけでなく、お客である女性にとって祖母は良き相談相手であった。お茶とお菓子を食べながら家庭問題、健康問題など悩みを抱えた女性たちに寄り添ったのである。
祖母はよく嘘も方便と口にしていた。
誰かを騙したり傷つけたりするような嘘ではなく、憔悴している誰かのためにお世辞をいうのは不幸にすることではないからついてもよい嘘なのだと。
化粧で外面を明るく見せるお手伝いをする、祖母にできることはそれ以上でもそれ以下でもないが、それによって救われた女性も少なくないだろう。
悲しみ、嫉妬、やるせない思いといった感情を吐き出すでなく、ぐっと飲み込まねばならない時が大人になるとあることに気づいたのは最近になってからだ。生きる悲しみにそっと蓋をするように女性たちは化粧をする。
人は喜びではなく、悲しみがあるから他者に寄り添うことができるのかもしれない。
今日も皆様にとってよい一日でありますように。
注)祖母は現在も元気に化粧品や健康食品を販売している。
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