「ハイパフォーマーの真似はするな」TORiX株式会社 高橋浩一が語る、仮説と検証から見つけたオンリーワンの営業戦略
「自分は営業に向いていないかもしれない」
と、誰しも一度は悩んだことがあるのではないだろうか。
時に売れている友人や先輩と自分を比べると、彼らの圧倒的なコミュニケーション能力やヒアリング力に「自分なんて……」と頭を抱えるかもしれない。しかし忘れてはいけないのは、それらは彼らの生まれ持った才能ではなく、これまでに努力し磨いてきたスキルなのである。
「私の未達時代」では第一線で活躍するセールスパーソンを訪ね、失敗をしていた過去から売れるようになった現在までのストーリーを紹介していく。記念すべき第一回目となる今回はTORiX株式会社 代表取締役の高橋浩一さんにお話を伺った。
実は高橋さんももともとは「人見知り」に悩まされた一人だった。しかしそこで彼は“あえて”営業の道に進むことに決めたのだ。本記事ではそんな彼がなぜ営業を選んだのか、これまでどんな失敗をしてきたのか、また彼の考える「売れる営業に必要なもの」を明らかにする。
プロフィール
東京大学経済学部卒業。外資系戦略コンサルティング会社を経て25歳で起業、企業研修のアルー株式会社に創業参画(取締役副社長)。事業と組織を統括する立場として、創業から6年で70名までの成長を牽引。同社の上場に向けた事業基盤と組織体制を作る。2011年にTORiX株式会社を設立し、代表取締役に就任。これまで4万人以上の営業強化支援に携わる。
コンペ8年間無敗の経験を基に、2019年『無敗営業「3つの質問」と「4つの力」』、2020年に続編となる『無敗営業 チーム戦略』(ともに日経BP)を出版 、シリーズ累計7万部突破。2021年『なぜか声がかかる人の習慣』(日本経済新聞出版)、『気持ちよく人を動かす 〜共感とロジックで合意を生み出すコミュニケーションの技術〜』(クロスメディア・パブリッシング)を出版。年間200回以上の講演や研修に登壇する傍ら、「無敗営業オンラインサロン」を主宰し、運営している。
営業が「工夫と改善」という足腰を鍛えてくれた
——現在のお仕事について教えてください。
現在は営業強化支援のコンサルティング事業や、研修・組織開発事業を提供するTORiX株式会社で代表取締役をしています。
個人では年間で200回以上の講演や研修に登壇しながら、「無敗営業オンラインサロン」を主宰し、運営をしています。
——営業という職を選んだきっかけを教えてください。
もともと私は小学校の頃から人見知りがひどく、それを克服したいという想いがずっとありました。そこで高校一年生の頃、英会話学校のポスターを貼るという飛び込み営業を始めたんです。
営業はいくら失敗してもいいし、何度でもやり直しがきくもの。喋る練習になるだけではなく、練習をするとお金も稼げて、コンプレックスを克服したい私にとってこんなにいい機会は他にないと思いました。
——高橋さんにとっての“初めての営業経験”は、飛び込み営業なんですね。
もちろん最初はポスターを貼ってもらうため頭を下げてばかりで、全然上手くいきませんでした。しかし「何かやり方を変えなければ」と試行錯誤した結果、ある時貼ってもらえるルートを見つけたんです。
それは古いポスターを新しく貼り替えるという方法です。古くなっているポスターを見つけたら、「古くなっているので、新しいのに変えませんか」と提案してみる。そうすると相手は嫌な顔一つせず、受け入れてくれました。
それまで営業とは“嫌がる相手に飛び込んで行くもの”と思っていましたが、お客様のタイミングを見極めることで、嫌がられることなく営業できるということを知りました。
——そこからはどのように学び、トレーニングしていったんでしょうか?
大学生の頃にはテレアポのアルバイトをしました。そこでは売り上げをあげている何人かのテレアポを横で観察・分析して、アポの取り方を覚えました。その結果、最初は全然上手くいかなかったものが、どんどんとアポが取れるようになっていきましたね。
例えば「アポイントのお時間いただけませんか」よりも、二者択一話法を用いて「月曜日と火曜日の方はどちらがよろしいですか?」と日程の候補を出すようにしたり、代表に電話して「関係者全員会議入ってます」と断られた際は、「みんな会議が入っているということは、終わりの時間をご存知ですね。会議のお時間を教えてください」と返してみたり。
アポをもらうために、電話する相手との会話時間を増やすことを意識していました。「どんな電話だったら担当者に繋がるのか」が分かるようになってからは徐々に成績が良くなってきましたね。
——先輩から教わるのではなく、周りの売れる人を観察していたんですね。
そうですね。
社会人3年目には私含む3人で会社を創立したんですが、その頃は「仮説検証ゲーム」のような感覚でひたすらテレアポを行いました。
「電話がつながらない」という課題があれば、解決策を3つ上げて、それらを全て実行します。要は「課題に対する仮説を検証し続ける」ということですが、その方法を繰り返すようになってからは自ずと結果が出ました。
営業を経験していくうちに「営業はやり方次第で、成果が得られるものである」と認知できたのは大きかったです。成功体験のおかげで自信もついていったので「できることは全てやろう」スタンスで、何事にも挑戦してきたように思います。
「10人の中の2人」から、どこまでも深堀りする
——そこから売れ続けるようになるきっかけは、何かあったんでしょうか?
お客様の中でも、フィードバックや情報をくれる人々を大切にするようにしました。お客様が10人いるとすると、大体2人ほどは正直に話してくれる人がいます。
例えば初回訪問の際に「次回もう一度会っていただけますか」と伺い、「良いですよ」と答えてくださったとします。その方には「今なぜ2回目会おうと思ったんですか」ともう一歩踏み込んで聞いてみるんです。
すると「〇〇が良かったから承諾しました、しかし××は残念だと思いました」など、丁寧に商談に対するフィードバックをくれます。
——なるほど。
もらったフィードバックに対しては有り難く受け入れ、改善し続けました。そうしてサイクルを回し続けていると、私の中での仮説と現実にズレがあることにも気がつけました。
——どんなズレだったんでしょうか?
ある時お客様に「なぜ私の会社に発注してくれたんですか?」という質問をしたんです。
私はてっきり「自社のサービスが良いから発注してくれたんだ」と思い込んでいたのですが、お客様は「以前発注していた会社が気に入らなかった」と。想定外で「そんな理由で発注してくれることもあるのか」と驚いたことを覚えています。
つまり「なぜその会社に発注しているのですか?」という質問に対するお客様の答えには、取引してもらえるためのヒントが眠っているということですね。
例えばその回答で得た情報のうち、他社の良いポイントには「私の会社でも同じことができますよ」と返せます。反対に残念なポイントには「このような懸念を抱かれているかとは思いますが、それに関して私たちは〇〇をします」と改善策を打ち出せば良くて。
それに気がついてからはお客様に「なぜこの会社と取引しているのですか?」とマストで質問するようになりました。
余談ですが、ある時気になって「私のようにしつこく聞いてくる人はいますか?」と質問してみたら、「いないですね」と言われたことがあります(笑)。私は他者と比較して勝つのではなく、“しつこく”聞くからこそ営業で勝てているかもしれないと、強く実感しました。
——“しつこく”聞く。聞き方にも何かポイントがありそうですね。
もちろん営業都合でズカズカと踏み込んでいくのはダメです。きちんとお客様のことを大切にしたうえでの“しつこく聞く営業”であれば、そうそうお客様に怒られることはありません。
私自身、「相手の都合を無視してはいけない」という想いがあり、相手に対する振る舞いや身だしなみには気を遣っていました。
過程が良くても、“詰めの甘い”営業は失敗する
——過去の失敗談で、何か印象的なエピソードはございますか?
恥ずかしい話はたくさんありますよ。
「お客様とディスカッションしよう」と初回訪問でいきなりホワイトボードを使ったり、目が悪いお客様には「できるだけ大きな資料を」と、スケッチブックを持って行ったり。様々なことを試していたので、その分よく苦笑されましたね。とにかく、成果が出そうなら何でもやってみよう、というスタンスでした。
ただ、そういったものとは別に、いちばんの失敗体験は何か?と聞かれたら、すぐに思い出す案件があります。それは、最初に起業したとき、初年度の売り上げの3分の1にあたる大型商談を落としてしまった時のことです。
その時は商談に参加する講師の方と細かく打ち合わせしなかったせいで、当日は講師の独演会のようになってしまいました。当然ながら、お客様と息の合った商談にはならず、ほぼ受注が確定していた案件が失注してしまいました。
そこで学んだのは、「どんなに上手くいっていた案件であっても、最後の詰めが甘いと消えてしまう」ということですね。
※高橋さんのこれまでの「営業失敗エピソード3選」を書いていただいた
——では、読んでくれている方にひとつだけアドバイスをするのなら?
もしいま成果が出ずに苦しんでいるという方がいらっしゃったら、お伝えしたいのは「お客様は十人十色である」ということです。
お客様を並べたら10人全員ガードが堅いわけではありません。ガードが堅い人もいれば、ゆるい人もいる。断るお客様も、みんな全く同じ理由で断ることはありませんから。
お客様をひとくくりにしないこと。自分にとって一番楽なお客様を選び、まずはそこからアプローチしていけば良いんです。
人の数だけ意見がある。単なるハイパフォーマーの真似に意味はない
——ここから少し組織についてのお話もお伺いできればと思います。高橋さんが考える、売れる組織と売れない組織は何が違うのでしょうか。
そうですね、売れている人の行動を考えなしに真似させることは危険な行為です。ちなみに私も昔、自分の商談の文字起こしを紙に印刷し「これと同じように商談してください」とみんなに配っていたことがありました。
しかしハイパフォーマーのやっていることをみんなに真似させようとしても、当然できないんですよね。ハイパフォーマーは誰もできないことをできるからこそ、そう呼ばれるんではないかなと。
恥ずかしながら、当時は「KYマネジメント」と裏で言われてしまっていました(笑)。
みんなは真面目に考えて素敵な意見を持っていたのに、私が無理やり押さえつけてしまっていたからこそ、伸び悩む時期もありました。
しかしそれに気づいてからは「もっとみんなに意見を聞こう」と考え方を変え、今までやっていたことも180度変えました。そうしたら売上利益もグンと伸びましたね。
——ありがとうございます。最後に売れ続ける組織を作っていく秘訣を教えてください。
『チーム戦略』にも記載している「4つのキーワード」を抑えることです。
<4つのキーワード>
①勝ちパターンを作ること
②活動の実態を「見える化」する
③人が育つ仕組みを作る
④コミュニケーションのバランスを整える
まずは①勝ちパターンを作ること。そしてその勝ち筋に沿って、チームの方針や施策を組み立てます。次に②過程を「見える化」する。そうすると立てた方針と施策が業績に結びついているのか検証できます。ここで頭で分かっていても、実行につまづいているメンバーに対しては③人が育つ仕組みを作るのです。
①〜③ができていないチームは、お互いに「目標達成へのプレッシャー」をかけてしまい、つい本質的なことを議論できなくなり、お互いの存在も大事にできなくなってきます。すなわち①〜③が抑えられて、始めて④コミュニケーションのバランスを整えることができるんです。
強い営業チームを作るためには、4つキーワードを①→②→③→④の順番で揃えていくことが重要ですね。
これら全て揃った時に初めて、お客様と営業、そしてマネージャーとメンバーの間で「共に創る」という関係が生まれ、勝てる強いチームを作ることができます。ぜひ参考にしてみてください。
●YouTubeにて、対談中の音声を配信中●
取材音声データはYouTubeで配信中です!
記事には書けなかったマル秘話も公開されておりますので、是非通勤の合間などにお聞きください!
ライター:フジカワハルカ