【読書記録6】スキマワラシ
旅と読書をこよなく愛するBrain Library七瀬 透です。
恩田陸「スキマワラシ」
今回紹介するのは、恩田陸さんの「スキマワラシ」です。
恩田陸さんの小説には、独特な雰囲気があり、今回の「スキマワラシ」もファンタジーでありながら、身近な日常が題材なので「自分の身にも起こりうるのではないか?」とワクワクさせられる一冊でした。
あらすじ
古道具店を営む太郎と散多の兄弟。早くに両親を亡くした兄弟の弟は、物に触れると、そこに宿る記憶が見えるという不思議な力を持っている。
ある日、古いタイルから両親の姿を感じ取る。そこから、とある共通点を持ったタイルを探し始める。
タイルと両親にまつわる謎と、解体が近づく廃ビルで目撃される少女の謎。
2つの謎が交わる時、時を超えた物語と真実が見えてくる。
身近に起こりそうな予感満載な、兄弟をめぐる一夏のファンタジー小説です。
書感
「あぁ、これこそが恩田陸の世界だ・・・。」読了後真っ先に感じた感想だった。
ファンタジー小説でありながら、身近な要素を題材にするため、自身の身にも起こるのではないかと錯覚させられる。
学生だった頃に恩田陸さんのデビュー作「六番目の小夜子」を読んで、自分の学校にもこういうことが起こるのではないかと、ドキドキワクワクしながら登校していた記憶が今でもある。
今作の「スキマワラシ」でも、そういった思いをくすぐる。
廃墟を目撃すると、そこに白いワンピースの少女がいやしないかと、まじまじと見つめてしまうのだ。
各章の始まりには、語り主である主人公の「散多」が我々「読者」に話しかけるように綴られている。それがさらに、小説内と読者を一体とさせるのだ。
ファンタジーとリアルが交差する瞬間を楽しみたい人にはオススメの1冊です。
私たちは、身近な人の死に遭遇すると、この人は何を思っていたのだろう。どうしてこういう行動に出ていたのだろう。
そんな疑問が湧いてくることがある。しかし、当人が亡くなっている以上、その疑問に答えをくれる人はいない。
当然といえば当然なのだが、その答えの出ない疑問に答えを求めている人は少なくないのではないか?
幼い頃に両親を亡くした、主人公の兄弟もまた、そんな疑問をいくつも抱えていた。
「なぜ、自分にこの名前をつけたのか?」「亡くなった母の旧姓と同じ苗字を持つ女性との関係とはなんなのか?」
そんな疑問を抱えながら、両親とのつながりのあるタイルを探すことで、少しずつその謎の答えに近づいて行く。
今を生きている人と、亡くなった人を繋ぐような心温まる、ひと夏の不思議な出来事を描くファンタジックミステリー小説。
心の隙間に、亡くなった人への思いを抱えている人にこそ、読んで欲しい1冊でした。