見出し画像

【読書記録11】俺ではない炎上

旅と読書をこよなく愛するBrain Library七瀬 透です。

浅倉秋成「俺ではない炎上」

今回紹介するのは、以前【読書記録3】で紹介した「6人の嘘つきな大学生」の作者である浅倉秋成さんの新作「俺ではない炎上」です。

その「正義」本当に正しいですか?

あらすじ

大学生の住吉初羽馬は、ある朝SNS上に投稿された、とんでもないつぶやきを目にする。それは投稿主自身が殺人を犯したことを仄めかす内容だった。
投稿主と疑われている、山縣泰介が会社に戻ると空気は一変していた。
殺人犯であるとされて、ネット上では既に泰介の個人情報が飛び交っており、炎上していたのだ。
泰介からすれば全く身に覚えのないことだったが、泰介を語るアカウントは実に巧妙だった。泰介をよく知る人物はもちろん、泰介自身でも自分のアカウントではないかと疑ってしまいそうになるものだった。誰一人として無実を信じてくれない中、泰介は逃亡を決意する。
いつもと変わらない日常だったはずなのに、突如として日本中の誰もが敵になり、追われる身となってしまった泰介が行き着く先は絶望か?あるいは・・・。

書感

読み始めて真っ先に思ったのは「胸糞の悪さ」。昨今話題になっているSNSが題材となっており、自分自身が炎上の当事者になる可能せも、炎上させてしまうこともあるかもしれない。そして無責任に正しさを振りかざす発言をしてしまう可能性も十分に持ち合わせている。だからこそ、読み進めるのが苦痛だった前半部分。
人間の悪き部分であり、我々のすぐ身近に潜む闇を見事に描き出しているといえば聞こえはいいが、それに触れるのは思いの他体力のいる作業だった。
そのため、購入後すぐに読み始めた時は、3分の1を読了した時点でギブアップ。怖すぎる・・・。
インターネットに潜む闇・・・。いや、ブラックホールと言っても過言ではないそれに引き摺り込まれそうになって病んだ(笑)
時を同じくして斉藤兵庫県知事のニュースが世間を騒がせていたのも、読めなくなった要因の一つだ。SNSの扱い方一つで、こうも風向きが変わるのかと現実世界でも実感させられたからこそ、恐ろしさを感じずにはいられなかった。

3ヶ月ののち、満を持してもう一度読み始めると、読了するまではあっという間だった。
前半は、私自身にも少なからず身に覚えのある人間の闇を見せつけられるのだが、後半からの怒涛の伏線回収は目を見張るものがある。
この物語が、いかに緻密に組み立てて作られたのかがよくわかる。ただミスリードを誘いたいがゆえ、少し無理がある表現もあったなと感じてしまう部分も。
3分の2を読み進めてもなお、逃亡シーンは続いており、放置されたままの人や事象が山のように残っている。
これらをどのように回収していくのか、そしてどのような結末を迎えるのか引き込まれた。
どれだけ善良な人の中にも悪の部分が住んでいる。そして、その悪と善はそれぞれの立場で変化するにも関わらず、主張する人間はいつも自分が正しいと思っている。
果たしてそれは本当に正しいものなのか?常日頃から自分に問いかけざるおえなくなる。そんな力のある物語であった。

いいなと思ったら応援しよう!