JRを使わない、私鉄関東一周の旅
はじめに
皆さんは「大回り乗車」というのをご存知ですか? 関東や近畿の大都市近郊区間で適用される運賃計算の特例を利用して、例えば、東京から神田へ行くにあたって、東海道線で茅ケ崎、相模線で橋本、横浜線で八王子、中央線で神田と回ったとしても、途中で改札を出さえしなければ、最短距離の運賃で計算されるというものです。同じ駅を2度通らないようにすることに注意が必要です。
さて、このたった150円で一日中ひたすら乗り鉄の旅ができるJRの大回り乗車も大変魅力的(ルートを考えるのも楽しい)ですが、関東地方には私鉄もたくさん走っています。この4月に埼玉県所沢市に引っ越してきた私、先日、何気なく路線図を見ていましたら、私鉄を使ってぐるっと関東を回ってくることができそうな気がしてきました。それも、途中でJRを全く使わずに私鉄だけで関東を一周できないだろうかと。
思い立ったらまずは計画です。私鉄だけで、なるべく大きく関東を回ってくること、それが今回の旅のルール。YouTube風に言えば「JRダメ絶対! 関東私鉄一周の旅」とでもなりましょうか。
いろいろと調べて決めたのが下図の赤い線のルート。早朝に自宅の最寄り駅である西武池袋線・小手指駅を出て、秩父、羽生と回り、東は新鎌ヶ谷から勝田台へ、そこから東京都心部の東を通って神奈川県へと抜けて、その後北上して再び小手指へと帰ってくるルートです。
当然、JRと違って、私鉄の会社間の乗り換えでは改札を出ますので、150円で行って帰ってくることはできません。相当大きく回っていきますので、いったいいくらかかるかはわかりません。というわけで、私はこの私鉄だけで大きく関東を一周する旅を、勝手に「"おとな"の大回り乗車」と名付けました。お金に糸目をつけずに旅をする、そんな”おとな”じゃないとできない大回り乗車。さて、いくらかかるかな? 早速行ってみましょう。(ちなみに、下記の運賃は、すべてIC運賃です)
1.西武鉄道(小手指→西武秩父・47.4km・513円)
まずは自宅最寄り駅の小手指駅から早朝5時40分発の列車に乗って西武秩父へと向かいます。
西武池袋線は現在、飯能で系統分離されているので同駅で乗り換え。快速急行として秩父鉄道へも乗り入れていた4000系が、今では飯能から西武秩父間のローカル輸送を担っています。2ドアの車両にひたすらボックスシートが並ぶ、東武6050系と双璧をなす旅行者には何ともうれしい車両です。
飯能から先は奥武蔵の山々をぬって走る山岳区間。朝日に輝く山々がきれいでした。たっぷり1時間をかけて西武秩父に到着。びっくりするくらい涼しかったです。
2.秩父鉄道(御花畑→羽生・59.7km・990円)
西武秩父駅前には温泉施設も誕生し、より秩父の玄関口としての趣きが出てきましたが、ここでゆっくりする時間はありません。続いて乗車するのは秩父鉄道。実はこの路線が関東私鉄一周の旅に大いに役立つ埼玉の東西を横断する路線なのです。
西武秩父駅から、秩父鉄道の乗換駅、御花畑駅までは歩いて数分。この時期は羊山公園の芝桜にあやかって、駅名板は「芝桜駅」になっていました。
乗車したのは東急からやってきた車両。数年前までは旧国鉄101系や165系なども走っていましたが、今では元東急車がかなりの数を占め、西武からのお下がり車両や元都営三田線の車両などもあっという間に少数派になってきました。
羽生までの直通列車もなくはないのですが、私が乗った列車は熊谷で乗り換え。熊谷から羽生へは、2両編成に短編成改造された元東急車でした。
3.東武鉄道(羽生→新鎌ヶ谷・69.0km・827円)
羽生からは東の雄・東武鉄道に乗り換えます。東武伊勢崎線で春日部へ出て、そこから東武アーバンパークラインという誰も使っていない愛称を持つ東武野田線に乗り換えて新鎌ヶ谷へと向かいます。
まず乗車したのは久喜行。地下鉄半蔵門線およびその先の東急田園都市線との直通運転が開始されて以降、久喜が地下鉄直通車の終点となったこともあって、多くの列車が久喜で系統分離されています。
やってきたのは10000系。コルゲートの多い初期型ステンレス車両ですが、しぶとく今でも健在です。
久喜に到着すると、ほどなくして久喜始発の半蔵門線直通中央林間行が入線してきました。乗車したのは最新鋭の18000系。車内は新車のにおいがしました。結構な乗客が乗っていましたが何とか空席を見つけ春日部まで移動します。
久喜からだとわずか20分ほどで春日部に到着します。中高生の頃は春日部で乗り換えて新越谷まで使っていた私ですが、春日部から先は遠い場所というイメージがありましたが、そうでもないんですね。
春日部からは東武野田線に乗り換えます。野田出身の私にとって、東武野田線は身近な存在。全て各駅停車ばかりで、古い釣り掛け車である3000系や5000系が走っていた記憶もありますし、その後もやってくるのは8000系の普通鋼製車ばかり。それがしばらく見ないうちにステンレスの10000系は入ってくるは、驚いたことに野田線に新車60000系が導入されるは、そしてついには急行列車が運転されるはで、びっくりしたのですが、今回のその急行に乗って新鎌ヶ谷へと向かいます。
東武野田線の急行で充当されていたのは8000系でした。新車の60000系が優先して使われているわけではなさそうです。がっかりする反面、今では貴重になってきた8000系に乗ることができるのは実はちょっと嬉しかったりもします。中高生時代に使っていた時そのままの車両で懐かしさを感じながらの移動でした。ちなみに、急行とはいえ、春日部から運河までは各駅停車。しかしその後の急行運転で途中駅を通過していく様は、なかなか圧巻でした。
4.新京成電鉄(新鎌ヶ谷→北習志野・8.9km・178円)
新鎌ヶ谷に到着したのはお昼少し前。ここでお昼を食べます。見つけたのは東武と北総の乗り換え通路にあった「東京チカラめし」。一時期、急速に店舗数を増やして、私も大好きだった焼き牛丼のお店ですが、ブームが過ぎ去るとあっという間に閉店や業態転換の嵐となり、なんと今ではここ新鎌ヶ谷と大阪の日本橋にしか店舗がありません。チーズトッピングの焼き牛丼をオーダーし、懐かしい味をかみしめました。
ここから乗車するのは新京成電鉄です。大回り乗車的には北総線から成田スカイアクセス線に乗って空港第2ビルへ行き、そこから京成電鉄で帰ってくるルートもあるのですが、時間がかかるのとゴールデンウイークの初めで空港へ行く旅客が混んでいるのを見越して新京成にしました。
新京成線は陸軍の鉄道連隊が作った路線だけあって、わざと大きくカーブを繰り返しながら短い駅間距離を丹念に繋いでいく路線。新鎌ヶ谷駅のホームからはお隣の北初富駅が間近に見え、そしてその横には遠く東京スカイツリーが霞んで見えていました。
5.東葉高速鉄道(北習志野→東葉勝田台・8.1km・440円)
ここからは東葉高速鉄道に乗車します。西船橋から東京メトロ東西線に乗り入れる通勤路線。向かうは東の終点東葉勝田台です。新線なだけあって運賃が高く、新京成と同じく乗車距離は8kmちょっとながら、新京成よりも2倍以上高い440円かかりました。
ニュータウンを走る鉄道ならではですが、八千代緑ヶ丘周辺の開発ぶりは目を見張るものがありました。わずか12分で終点の東葉勝田台に到着です。
6.京成・都営・京急(勝田台→上大岡・77.9km・1,194円)
勝田台に到着しました。今回の私鉄関東一周の旅も東の果てまで来たことになります。ここからは都営浅草線直通の列車に乗って京成電鉄を西へと進みます。
この列車ではたっぷりと1時間近く乗車して、都営浅草線に入り、泉岳寺で京急に乗り換えます。泉岳寺での乗り換え時間はわずかに1分。写真を撮る間もなく急いで乗り換えましたが、乗り換えたのは転換クロスシートの快速特急でした。いつ乗っても、この京急の快特は快適です。これが無料で乗れるのですから、やっぱり京急大好きになります。
先ほどまでの京成・都営浅草線での1時間と比べると、クロスシートに座りながらの快速特急の旅はわずか30分で短く感じます。名残惜しくもありますが、上大岡から先に行ってしまうと私鉄だけで一周することができなくなるので、後ろ髪をひかれつつも上大岡で下車しました。
7.横浜市営地下鉄(上大岡→湘南台・13.8km・304円)
上大岡からは横浜市営地下鉄ブルーラインに乗車します。
そもそも、もともとの地元千葉の時も、現在の埼玉も、神奈川県というのは縁遠い場所でして、横浜市営地下鉄に乗車するのも実は初めてです。
地下鉄なので当然、地下区間が多いのですが、途中、上永谷の近辺や、終点の湘南台近くになると地上を走る区間もありました。横浜市は起伏に富んだ地形をしていますが、この辺りもなかなかの起伏ぶり。結構高いところを走るので眺めも良かったです。
8.小田急江ノ島線(湘南台→大和・8.2km・199円)
ここまで来ると、もう全体の4分の3ほどを来たことになりますでしょうか。疲れもそろそろ出始めてきます。乗客が多いということもありますが、写真を撮る回数もめっきりと減りました。
ここで乗車するのは小田急江ノ島線。このまま相模大野までまっすぐ乗ってもいいのですが、途中の大和で降ります。乗車したのは小田急の通勤車両の主力3000系。小田急も一気に車両の更新が進みました。
9.相模鉄道(大和→海老名・7.2km・209円)
疲れてきましたし、この後には再び小田急に乗るので、相模大野まで行ってもいいのですが、私鉄だけで大回りで行くことを考えると、やはり大和で乗り換えて少し西に進路を振り、海老名に向かわねばなりません。
相鉄の大和駅は地下にあります。地下ホームでの撮影は大変撮りにくいですね。案の定、やってきた列車はブレブレでした。
せっかくなので、相鉄のオリジナル車両に乗りたかったのですが、来たのはJR埼京線からの乗り入れ車両。この旅唯一のJR車に乗車します。これもJRや東急との直通運転が始まった相鉄ならではの光景といえましょう。
海老名まではわずかに10分で到着です。終点の海老名では特急新宿行の相鉄オリジナル12000系が停まっていました。このネイビーブルー一色のいかつい姿、新宿駅などで見かけると異彩を放ちます。
10.小田急電鉄(海老名→小田急多摩センター・30.1km・387円)
再び小田急線に乗車します。
今度は小田急小田原線で新百合ヶ丘へ向かって、そこから多摩線に乗り換え、小田急多摩センターまでを目指します。小田急線もロマンスカーで箱根などへ行くことはありますが、あまり普通の車両に乗ったことはなく、なかなか新鮮でした。
多摩センターに行ったのも初めてですね。サンリオピューロランドもある多摩ニュータウンの中心駅で、たくさんの家族連れがいました。かなり大規模に開発された多摩センター駅周辺。スケールはちょっと違うかも知れませんが、個人的には、つくばエクスプレスの終点・つくば駅の周辺を思い起こさせました。
11.多摩都市モノレール(多摩センター→玉川上水・14.5km・408円)
今回の私鉄関東一周の旅で重宝した路線のひとつがこの多摩都市モノレールです。関東地方では東京から放射状に延びる路線は数多くありますが、その間を縦に繋ぐ鉄道路線は貴重です。
この多摩都市モノレールは多摩センターから北へと向かい、京王線の高幡不動、中央線の立川、西武拝島線の玉川上水を通って上北台までを結びます。多摩の丘陵地帯をアップダウンを繰り返しながら進む多摩都市モノレール。車窓も最高ですが、自然の中を進む路線として、撮るのもきっと楽しそうだなと思いました。今度、じっくり撮りに行きましょうか。
12.西武鉄道(玉川上水→小手指・14.7km・252円)
玉川上水駅まで着くと、もうそこは西武鉄道のテリトリーです。今となっては懐かしさすら覚えるライオンズブルーの駅名票。拝島線で小川、国分寺線で東村山、新宿線で所沢と細かい乗り継ぎを行って、小手指には18時半前に帰ってきました。
むすびに
こうして、小手指を早朝に出発した今回の関東私鉄一周の旅はおよそ12時間半の旅程を終えました。
乗車距離は359.5km、費用はしめて5,901円です。JRの大回り乗車の実に39倍ものお金を注ぎ込んで行ってきたこの旅行。まさに”おとな”じゃないとできない、ぜいたくな乗り鉄旅となりました。ともあれ、いろいろな会社のいろいろな車両に乗ることができて、実に楽しい旅となりました。今度は近畿地方でやってみましょうか。
(掲載写真はすべて筆者撮影)
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