【正欲】「明日、死にたくない」という欲求こそ。#映画感想文
映画感想文を書くのは2023年初めてらしい。来月で今年終わるぞ?ずっと書く書く詐欺をして下書き熟成させまくってる「怪物」よりも先に「正欲」の感想文を書くことをお許しください(?)
朝井リョウさんの小説が大好きで、その中でも「正欲」は昨年読んで今まででいちばん好きになった。2022年BEST10にさらっと書いてるので、一旦割愛します。映画化はめちゃくちゃ嬉しかったけど、どうやって映像に落とし込むんだろ?って思ってて。結論、原作も映画も好き。欲を言えば、記憶を全部消して原作を知らないまま、映画から正欲の世界観に入ってみたかった。あの伏線回収のピースがハマった瞬間のゾクゾク感がたまらない。
去年いくつか書いた映画感想文は、あらすじも勝手に告知も、目次を付けてちゃんと書いたけど、そのスタイルじゃなくていいか〜ってなってる。なので、つらつらと好きなように書いていくよ。
公式サイトは貼っておこう。
※ネタバレ含む可能性あり
視覚と聴覚に集中させる描写
原作を読んでから1年半、やや記憶が薄れている部分もあった。冒頭どんなシーンから始まるのかとわくわくしていたら、コップに水を注ぐところだった。機械のボタンを押し続けたらひたすら垂直に水が落ちるやつ、勢いが良すぎてビシャーって水飛沫が跳ねるやつ。
「水」を中心にストーリーが展開していく。視覚にあらゆる水の変化を見せつけ、聴覚に研ぎ澄まされた水音をこれでもかと。水が生きてるかのようだった。そして、無音の時間も多かったように感じる。沈黙の間と表情の些細な動きを疎かにしない、丁寧な描写が好きだった。
普通、当たり前、マイノリティ、多様性、社会のバグ
メインテーマはここだよね。原作も含めて、映画の中でも嫌というほど、一個人の価値観を基に「普通」や「当たり前」が定義されて、押しつけられて。悪気なく、信じて疑わずに、正義感で、透明なナイフで滅多刺しにされてるみたい。「マイノリティだって世間が認めてるうちは、まだマジョリティだよ」みたいなニュアンスが原作に書いてあったような気がする。去年読んだときに、世間が認めようと騒いでる「多様性」の薄っぺらさに辟易した。Gの友達いるけど、認めようとか正直どうでもいいんだよね。まじでどうでもいい。ふ〜んって済ませればいいものの、自分の価値観に当てはめようとするから、「認める」「受け入れる」という言葉が出てくる。今回は性的マイノリティの話だけど、それに限らず上から目線で烏滸がましい感情だと思う。「理解する側でいるなよ」的な台詞もあったけど、本当にその通りだよね。
世間一般の道を踏み外した人のことを「社会のバグ」という発言があって、パワーワードだなあって刺さった。原作にもあったっけ?あったとしたら覚えてなかったな。「社会のバグ」をたくさん見てきた刑事ゆえの正義感、「正しい」道に矯正しようともがく様がリアルだった。私自身はキャリアブレイク真っ最中に原作に出会ったから、普通の人が前を向いて歩いてる道から脇に逸れたなあって感覚だった。無職で独身で一人暮らしで、この世界では社会のバグ呼ばわりされてた可能性がある(笑)。
誰もひとりじゃないといい、いなくならないから
映画を観るまで忘れてた台詞、今日改めて刺さった。ふたりの会話、お互いはもうひとり同士じゃなくて、お互いがひとりじゃなくなったからいいや〜ではなくて、「誰もひとりじゃないといい」と言えるやさしさね。個人的には、RADWIMPSの有心論の歌詞「誰も端っこで泣かないようにと 君は地球を丸くしたんだろう?」が浮かんだ。
「いなくならないから」も上記ふたりのお互いの言葉なんだけどね、詳細はおもむろにネタバレになるので控える。唯一反撃というか返り討ちできたメッセージなのでは。繋がりの強さを感じた。
「明日、死にたくない」という前提で成り立つ世界
小説でも冒頭に出てきたけど、映画でも冒頭すぐに世界観のはじまりが告げられた。原作でめちゃくちゃ衝撃だったんだよね、本編に入る前からなにかが壊された感覚で。たしかに、つらいことがあってもうこんな人生嫌だ!と勢いで思うことはあっても、明日死にたい、明日死んでもいい、と思って生きてないよなあって。キャリア、美容、お金、旅行、目に飛び込んでくる情報のなにもかもが「明日も死なない」前提で。疑ってもみなかった前提の価値観が崩される怖さね、いい意味でね。
「明日、死にたくない」と思えなかった彼らが手を組んで分かち合って、お互いに「いなくならないから」と交わすまでの心境の変化が、希望だなと思った。少しでも未来を信じられている感じがじんわりきた。
結局のところ、「正欲」とは
朝井リョウさんの真意はわからないけど、「性欲」と同音の「正欲」にして、性的マイノリティを取り扱ったのは、多分みんな解釈一致のダブルミーニングだと思う。
性欲以外にもいろんな「欲」が描かれているから、人間の本心の底にある欲求も含むのかなあと思ったり。「正しさ」を自問自答するようなものだったり。
ほぼ無意識下にある「明日、死にたくない」という欲求こそが、「正欲」としての価値を突きつけてるのかなあ。言語化がむずかしすぎる。
最後にいろいろと
2,000文字超ありがとうございました!リモート仕事終わりに観てきて、23時過ぎに帰ってきてお風呂の中で書き上げた!
個人的に、磯村勇斗の大優勝回だったと思う。「珈琲いかがでしょう」くらいしかガッツリ観たことなかったけど、あの含んだ表情と声の演技めっちゃ好きだった。
逮捕の描写は、固定観念に当てはめられる感じが「流浪の月」とも似てるような気がした。どう思う?知らないものは無いものとされて、都合よく「悪」にされて。
主題歌はまったく予習してなくて、誰なんだろ〜って思ってクレジット眺めてたらVaundyでした!「呼吸のように」初めて聴いたけど、とってもよかった。なにかがゆるされて、肯定される感覚。
よろしければ、映画も原作小説もぜひぜひ!!