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アイドルに疎いアラフィフがアイドルのイベントに行き「推している人を推したい」と思った話

アイドルへの興味が薄れたのはいつだろう。

見分けのつく男性アイドルは「嵐」までで、そのあとのグループはさっぱり分からない。「SixTONES」のグループ名を「シックストーンズ、シックストーンズ」と連呼し、友人に「あんなに有名なグループ、名前まちがえることある?」と大ウケされた。

しかし、あの文字列をなぜ「ストーンズ」と読むのだろう。謎である。

K-POPグループも誰がだれだか分からない。みんな同じ顔に見えてしまう。この疎さは、我ながらかなり重症だと思う。

女性アイドルの知識はさらに低レベル。

アイドルについてのクイズ大会があったとすれば、初戦敗退まちがいナシだという自信がある。いや、予選すらもとおらない。

こんなにもアイドル音痴だというのに、実はなんどか女性アイドルグループのイベントに行ったことがある。すべて末娘の付き添いだ。

高校生になった末娘の推しは、いまでも女性アイドルグループ。

小学生の頃から、男性アイドルにはちっとも興味を示さず、好きになるのは女性アイドルばかりなので、思わず「オトコはアカンの?」と聞いたことがある。

「男やないとあかんの?いいやん。女の子を推したいねんから。好きな人を推したいの!!」

好きな人を推したい。そりゃそうだ。

反論の余地もないくらいまっすぐな答えをもらった以上、娘に男性アイドルをすすめるわけにもいかない。推す権利は娘にある。

異性を推しましょう!なんて、時代遅れもはなはだしい。子どもたちと話していると、こんなふうに自分の思考がガチガチに固まっていることにときおり気づかされる。

恐ろしや、固定観念。

末娘は小学生のころ「乃木坂」「櫻坂」「日向坂」などの坂道グループを好きになった。握手会などのイベントにも何度か足を運び、コロナ禍では、ミーグリ(ミート&グリート)オンラインイベントにもよく参加していた。

推し活をしている多くの人はそうかもしれないが、娘はお小遣いやお年玉の大半をアイドルグループのグッズにつぎこんでいる。

彼女の部屋にはアクリルスタンド、うちわ、トレーディングカードなどが所狭しと並べられ、入っただけで目がチカチカする。カードが増えるにつれ、それを入れるファイルもどんどん増えていった。

学校の教科書や参考書は本棚から姿を消し、いまでは数十冊のトレカファイルが本棚にすっぽりとおさまっている。

おいおい、高校生。勉強しなくていいんかい?

坂道グループを入口に、娘のアイドル道は広がっていった。新しい女性アイドルグループを常に探していて、王道アイドルだけでは飽き足らず、最近ではデビュー前のグループも推すようになった。

インスタをフォローして、あのブログもチェックして、PVも見ないと!

なんだかヒジョーに忙しそうである。

ある日のこと。

「ここ行きたいねん」

聞き慣れないショッピングモールの名前を娘が言う。なぜここ?と思って聞いてみると、どうやら推し活らしい。なるほどね。

アイドルグループ「高嶺のなでしこ」のイベント。

以前、娘はそのアイドルのオンラインミーグリにも参加していた。今回はメジャーデビューシングルのリリースイベントなんだって。無料のミニライブと、CDを買えば参加できる握手会があるんだとか。

娘の友達はジャニーズやK-POPのファンばかりで、女性アイドルを推している子がいない。1人で行くのは気が引けるので、わたしに一緒に行ってほしいんだとか。

これまでもなんどか娘の付き添いで「日向坂」や「乃木坂」の握手会に行ったことがあるので、今回も一緒に行くことにする。アイドル音痴のわたしは顔や名前はよく分からないけれど、大勢のファンが集まっている空間が好きだ。あの熱気がたまらない。

だから、今回のイベントもひそかに楽しみにしていた。

イベント当日。

イベントに参加する興奮のあまり「昨夜はよく眠れなかった」と話す娘と、いびきをかいて深く眠ったわたし。

娘は洗面台を占領し、めちゃめちゃオシャレしている。パウダーをはたき、お気に入りのリップグロスを丁寧に塗り、眉毛を整えている。まるで、デートに行く朝じゃないか。

なんども全身鏡の前に立ち、髪形や身なりのチェックに余念がない。握手会で推しに会えるんだもの。そりゃあ気合が入るよね。

娘があまりにも可愛く変身していくので、イベント会場でスカウトされたらどうしようと心配になる。そのときはわたしも呼ばれるだろうから、それなりにキレイな格好をしていかなくては。

会場にはCDの予約販売が始まる30分前に到着。

すでに200人くらいの列ができていた。女性アイドルグループだからおじさまのファンが多いだろうと思っていたけど(固定観念、ふたたび)、行列を見てビックリ。10代、20代の若者がたくさん。おまけに女性率が高い。

可愛い子やキレイな子がたくさんいるのを見て、娘が今日スカウトされることはないな、と気づく。

無事にCDを予約し、握手会のチケットを4枚ゲット。1時間半後に始まるミニライブと握手会に娘はソワソワし、なんどもトイレに行く。わたしは会場をウロウロして「高嶺のなでしこ」のポスターを眺める。この可愛らしい子たちが出るのね、と思うが、やはりどの子も同じ顔に見えてしまう(重症)。

ファンの人たちはすでにテンション高め。高揚した表情でファン同士交流していた。



まずはミニライブの場所取り。ステージのある1階席は別途料金が必要なエリアなので、2階席の1番前にした。グループで来ているファンも多いけど、1人参加も多い。娘の隣に座った女の子は1人参加のようで、娘に話しかけてくれた。推しの話で盛り上がって楽しそうなので、わたしはその場を去ることにする。

ライブが始まるまで1人でブラブラし、ファンの人たちを見渡す。

開始時間が近づくにつれ、人はどんどん増えていった。600~700人くらいだろうか。遠巻きからでも、みんなの視線がステージに集まっているのがよく分かる。娘もジッとステージを見つめていた。

ウェルカムな雰囲気が満ち満ちた会場に「高嶺のなでしこ」がついに登場。ボルテージは一気にあがる。

わたしはステージではなく、ファンの人たちを観察していた。

自分の推しメンバーのテーマカラーに合わせた色のペンライトを振ったり、手作りの推しグッズをかかげたり。大きな声でメンバーの名前を呼び、ファンのみんなが笑顔で迎えている。これは、ステージ上の「高嶺のなでしこ」から見たら、きっと幸せな光景だ。

全身淡いピンクの服を着て、ピーチカラーのスニーカーを履いているおじさまがいた。きっと推しメンバーのテーマカラーなんだろう。

髪の毛をすべてグリーンに染め、緑のTシャツを着た女子もいる。推しメンバーは、グリーンがテーマカラーの子なんだろう。

メンバーのインスタ動画でメンバーが着ていたのと全く同じ服を着ている若い男の子もいる。

これらはすべて、娘が言っていた「ライブで推しからレスをもらえる方法」なのかもしれないな。そんなふうに思いながら、ファンの人たちをずっと見ていた。

「高嶺のなでしこ」はステージからファンに向かって大きく手を振ったり、手作りグッズをもっているファンに視線を送ったり「みんなありがとうーーー!」と言ったりしている。彼女たちの笑顔がまぶしい。

ファンの想いにちゃんと応えている。愛情の交換だ。

歌に合わせて、コールや手拍子、ダンスなどをしている人も多い。今日のこのイベントで「高嶺のなでしこ」への熱意を表現するために、その動画を前もってなんども見ていたんだろうな。そう思うと、とても尊い光景を見ている気もちになる。

どの人もすごくイイ表情。めちゃくちゃ楽しそうだし、情熱がほとばしっている。アツい、アツい、めちゃアツい。なんていい景色。目をキラキラさせて、生きてるぞ!っていう躍動感にあふれてるファンのみんな。

これよ、これ!わたしはコレを見たかった。

年齢を問わず、自分の「好き」という想いを体いっぱい表現しているファンの姿には、いつも心を奪われる。「好き」をもっている人は強い。「好き」はときに人を救う。

こういう雰囲気を見るのがすごく好きで、アイドルイベントに行くといつもファンばかりを見てしまう。見ているこちらが幸せな気もちになるし、元気をもらえるのだ。

多くの人のこんな姿を見ていると、わたしは推している人を推したくなる。

そう、推している人を推したいんだ。

みんな、これからも推し活をどんどん楽しんで。そして娘よ、また付き添いに行かせてくれ。

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