【人事は語る】ITベンチャーで採用したキャバ嬢がトップ営業になった話

今回、私がITベンチャーで人事をしていた時代に採用したキャバ嬢の話をしましょう。

そのキャバ嬢にはA子さんという仮の名前をつけます。

さて。A子さんは当時27歳で、短大を卒業してからずっと夜職をしていました。

そんな折に、たまたまお客さんとしてITベンチャー役員がきます。

その役員はA子さんよりも年下で、25歳でした。

しかし、役員なだけあって稼ぐお金は破格。若くして〇千万円という大金を手に入れていることをA子さんは知ります。

A子さんは思いました。

「ベンチャー企業ってめっちゃ夢あるじゃん!」

お金がすべての原動力であったA子さんはすぐに転職サイトを開き、ベンチャー企業に即・応募しました。

「役員になってやる」

そんな想いで20社近く応募するも、残念ながらすべて書類選考落ち。

ナイトワーカー歴しかなく、一般企業の経験がないため転職活動は難航しました。

しかし、営業として応募していた1社だけ書類選考を通過し面接に進むことができました。

それが、私が人事をしていたITベンチャーです。

ちなみに書類選考をしたのは私ですが、通過させたのはキラりと光る部分があったからです。その部分というのは、職務経歴書の最後に書かれていた自己PR。

「私はお金持ちになるためなら死んでも働く」

死んだら働けないどころか、お金が必要なくなるわけですが、お金へのすさまじい執着心を目の当たりにして私は直感的に思いました。営業として活躍しそうと。

では、話を戻しましょう。

面接日になり、私はA子さんと対面します。見るからにキャバ嬢といった見た目でしたが、気にしません。

私はA子さんの営業適正を見極めるためにいくつか質問をしました。

【私】
「営業職に必要なスキルは何だと思いますか?」

【A子さん】
「特にスキルはいらないと思ってます。とにかく稼ぐ。その気持ちを持つことが大事です」

その通りです。営業にもまったくスキルがいらないわけではありませんが、メンタルのほうが重要です。

【私】
「営業として、どれくらいの売上実績を作りたいですか?」

【A子さん】
「具体的な数字を挙げるのは難しいですが、日本で一番売れる営業を目指したいです」

営業職の面接をしていて、こんな返答をされたのは初めてでした。私は「これはいいぞ」と思いながらさらに質問をします。

【私】
「あなたは、お客様にとある商品を提案するよう会社から指示されました。その商品を買えば、お客様は確実に損をします。そして、お客様に提案をしたところ買うと言っています。あなたはお客様にその商品を売ることはできますか?」

【A子さん】
「売ります。お客様は商品に魅力を感じているのではなく、私に魅力を感じているから買うと言ってくれてるのだと思うからです。営業はモノを売っているわけじゃなく、自分を売っているようなものですから」

このように、私の予想とはまったく異なる回答が返ってくるため素直に感心してしまいました。

さて。面接を通じて営業適正があると判断した私は、最終面接へとA子さんを進ませます。そして、社長からも高評価だったため内定となりました。

そして、A子さんにとって初の出社日となります。A子さんは相変わらず夜職の雰囲気をぷんぷんと漂わせていましたが、誰も気にする人はいません。

仕事ができる人こそが正義だからです。

A子さんに会社のルール等をあれこれと説明し、営業部隊へと引き渡します。さすがに初日からゴリゴリに営業させるほどブラックではないので、徐々に会社の雰囲気に馴染んでもらう。

……と考えていましたが、さすがはA子さん。ふいに受話器を握ると、そのまま電話をかけまくります。

いまどき電話営業をしてもまともに相手をしてくれません。私の会社も電話営業をするような脳筋集団ではなく、プログラミング知識を活用して企業へ自動で営業メール送信をしているくらいです。

効率が悪いのは間違いありませんが、やれることからまず始める。そんな意図がうかがえたため、自由に営業させるのでした。

電話営業をスタートしてから、1週間。アポすら1件も取れないまま、A子さんはピタりと電話するのをやめました。

A子さんは電話営業では上手くいかないと分かり、次のステップへと進みました。それが、SNSの活用です。

企業アカウントに手あたり次第、DMを送って営業を仕掛けています。これまた、アポすら1件も取れずに1週間が経ちました。

次に何をするのかと見ていると、個人用スマホを操作し、何やら電話をしはじめます。

会話の内容からして、「キャバ嬢時代のお客さん」に連絡を取っているのだと分かりました。

確かに、キャバ嬢時代に知り合ったお客さんのなかには社長・役員もいるでしょうから、そこに対して営業を仕掛けているわけです。

これは元キャバ嬢にしかできない営業活動だと感心していると、嬉しい報告が聞こえてきます。

「ようやくアポ取れました」

こうして、A子さんは自分の経歴をフル活用して次々に新規開拓を進め、1年足らずでトップ営業になってしまいました。

キャバ嬢はコミュ力やストレス耐性を評価されることが多いですが、実のところ、一番の武器になるのはその人脈だったりします。

今回は、そんな話でした。

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