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16の思いも天にのぼる④恵美(2)
学校が終わると友だちと、駄菓子屋に寄り、駄菓子を数個買った。
友だちは相変わらず、ぼぉとしていて水風船の袋をミニカゴに入れていたので、戻してあげた。
それから雑談ルームで今日の学校の様子をまず話した。
「やっぱり、今日のクラスは静かだったね。いつまで、この静けさは続くんだろうね。広君、クラスのムードメーカーだったし」
「うん」
友だちは、心ここにあらずと言った返事を返す。それでも元気付けようと、頭をなでながら恵美は話を続けた。
「もぉ、本当に幸子は広君のことが好きだったんだね。広君もこんなに想われて、本当に幸せだな」
それに対しても、友だちから大した反応は得られなかった。
そこで、恵美は少しでも反応させ、元気づけようと、彼女の話題を切り出した。
彼女の悪口を言えは、少しは気が晴れるのではないかと考えたからだ。
「それにしてもさ、広君の彼女薄情だよね。泣きもしないし、顔色だって変えないし、あり得ないよね。本当に広君のこと好きだったのかね? 広君、顔もいいから、顔だけが好きだったんじゃないかな。まぁ、前々からちょっとすかした態度が気にいらなかったんだけどさ。それに、せっかく告別式の代表に選んだのにさ、断っちゃて本当に感じ悪いよね」
友だちのために言っていた悪口で、さっきの告別式の一件を思い出し、恵美は本当に頭に来てしまった。
「ねぇ、幸子はどう思っているの? 」
その問いかけに対し、友だちはぼぉとしていて反応がなかった。
「幸子聞いている? 」
少し大きな声を出すと、友だちはびくっとして小さく返事を返した。
「う、うん聞いてるよ」
友だちとは高校からの仲で、このぼぉとしたところがほっとけない。高校の入学式の日に、どこの輪にも入れなかったので、恵美が声をかけたのがきっかけで、仲良くなった。
恵美は少し強引なところがあるが、そんな正義感あふれる女の子だった。
二人が駄菓子を食べながら彼女の話をしていると、ちょうど駄菓子屋の前を彼女が通りかかった。
いつもと変わらぬ顔で。
そのことが恵美に、火を付けた。
「幸子、行くよ。ちょっと文句言ってやろう」
そう言うと、友だちの手を引いて彼女の元へ向かった。
友だちは、戸惑いながらも、付いてきた。
恵美は、少し強い口調で、彼女を呼び止めた。
「ちょっとまって、美奈子」
彼女は、振り返って怪訝そうな顔をした。
「なに? 」
「あのさ、あんたには血も涙もないわけ? 彼氏が死んだのに泣かないなんて」
彼女は微笑を浮かべて答えた。
「無いのかもね」
その反応にますます、怒りを募らせ、さらに彼女に畳みかけた。
「告別式の代表だって、せっかく推薦したのに断っちゃってさ。なんなの? 」
「私、いつお願いした? 私読みたいなんて言ってないよね」
顔色を変えずに、彼女が言い返してきた。
「な、なんなの! 広君のこと好きだった人たくさんいて、その中で付き合えていたんだよ。もっと、悲しいとかそういう感情出してもいいんじゃない? 」
恵美は、少し強い口調で言った。
「悲しいって感情出したら、広は帰ってくるの? それに、広のこと好きだった人は、たくさんいたかもしれないけど、私には関係ない」
彼女は、ばっさりと言い放った。
恵美はついに、怒りが爆発してしまった。
「関係ないって、ここで大泣きした、幸子は広君のこと好きだったんだよ。でも、あなたが付き合ったから付き合えなかった。それでも好きで居続けたんだよ。あなたよりずっと昔から好きだったんだから」
彼女は、友だちの方を向いて尋ねた。
「広のこと好きだったの? 」
友だちはぼぉとしていて、すぐに返事をせずに、彼女からの数回目の問いかけで、うなずいた。
「うん……。好きだった」
すると彼女は、無表情のまま言った。
「それで、相沢さんは何かしたの? 私はしたよ。遊びに誘ったり、遠足のとき一緒に回るようにお願いしたり。告白だってした。相沢さんは何かした? 」
友だちはうつむいて小さな声で答えた。
「何もしてない……」
「なら、何も言わないで。泣かないのだって私の勝手でしょ」
と捨て台詞をはいて、彼女は二人の元から離れていった。
ついに友だちは、声を上げて泣き始めた。
恵美は少しでも友だちの気が晴れればと思ってやったことが、逆効果になり、どうしていいか分からなくなってしまった。
周りの人が友だちを、じろじろ見始めたので、恵美は友だちの肩を抱き、ゆっくりと寄り添いながら家まで送った。
その間かける言葉が見つからず、寄り添うことしかできなかった。
友だちの家に着くと両親がいたので、広が亡くなったことを告げた。
そして、まだ泣き止まない友だちを両親に託して、友だちの家を後にした。
帰る際、母親に
「ありがとう。ここまで連れてきてくれて。」
と言われたが、半分自分が泣かしたようなものだったので、お礼を言われたことで逆に、罪悪感に襲われた。